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「しゅくだいやる気ペン」やる気の木に水注ぐ理由は? 開発担当者に深掘り質問

2020.01.24

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田幸 和歌子
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専用アプリによって「頑張り」を可視化するIoT文具「しゅくだいやる気ペン」。昨年7月に発売され、初回生産分はたちまち完売となった話題のアイテムです。同商品を通して見えてきた、子どもたちの宿題に対する悩みや向き合い方などについて、開発責任者にお話を伺いました。

話を伺った人

中井信彦さん

コクヨ 事業開発センター ネットソリューション事業部 ネットステーショナリーグループ グループリーダー

(なかい・のぶひこ)1974年生まれ。関西学院大学大学院 理学研究科修了。1999年、シャープ株式会社入社。液晶パネルの研究開発に従事したのち、海外向け液晶テレビの商品企画、手書きデジタル機器のプロジェクトマネージメントを経験。2013年、コクヨ株式会社へ入社。以来、デジタル文具の企画・開発に従事。UXデザイン(ユーザー体験設計)を通して、デジタルとアナログの融合価値を追求している。10歳(小4)女児、7歳(小2)男児の2児の父。

夏休みの子どもを救った!? 「しゅくだいやる気ペン」って何?

――初めて「しゅくだいやる気ペン」という名前を聞いたときには、ドラえもんのひみつ道具のようなものをイメージしてしまいました。実際はどんな商品なのでしょうか。

確かに、「手に持っただけでやる気が起きる魔法のペン」のように思われないかは、私たち開発側も一番心配した点で、HPなどでも誤解がないよう丁寧に説明を行ってきました。「しゅくだいやる気ペン」の目的は、やる気を見える化することで、家庭学習を習慣化することです。

使い方は、鉛筆に「しゅくだいやる気ペン」のアタッチメントをつけて宿題を解くだけ。紙に文字を書く動作に反応して内蔵されたLEDが光ります。子どもが問題を解き進めることで「やる気パワー」がたまり、光の色が変わるという設定です。宿題を終えて、ペンにたまったやる気パワーを、連動するスマートフォンの専用アプリに向けて注ぐことで「やる気の実」が手に入り、その実の個数だけすごろくのマス目を進めることができます。そんな風にやる気や取り組んだ量が目に見えることが子どもにとって「ごほうび」になるんです。

――子どもたちが夏休みの宿題に追われる7月に発売されたということも話題になった要因かと思います。

夏休みは「宿題」というワード自体が注目されるタイミングですよね。ただ、僕らは「宿題を楽しく終わらせて、残りの時間は親子で一緒に遊んでほしい」という思いで作ったんです。しゅくだいやる気ペンは、子どもの管理・監視のためのアイテムではなく、子どものモチベーションを引き出すためのツールなんです。もともと宿題は、子どもがさまざまなことに興味を持ち、それらを深めて追究していく基礎力を作るためのもののはず。でも、その役割がプリントなどの問題用紙だけではなかなか語れないから、親御さんがどう説明してくれるか、関わるかで変わってくるんじゃないかと。しゅくだいやる気ペンが、宿題の意味を理解するきっかけになることを願っています。

「ごほうび」を親子で決めて、子どもの「好きなこと」を見つけていく

――やる気パワーをためて、やる気の実を得て、すごろくが進むという動線は、とてもシンプルでわかりやすい。ゴールしたときに「ごほうびを決める」というのも面白いですね。

「ごほうびはどんなものがいいんですか?」という質問もよくいただきます。子どもが欲しがるものといえばTVゲームというご家庭も多いかと思いますが、ぜひ家族でコミュニケーションをとって決めていただきたいなと。できれば週末のお出かけなど、親も一緒に楽しめるものにしていただけると、新しい会話が生まれるきっかけになるのではないかと思います。

しゅくだいやる気ペンには、18のステージがあります。最初はすごく短くて10マスだけなので、すぐにゴールできますが、徐々に長くなっていって、最後のほうは4倍くらいの長さになります。すごろくを進めると、食べ物や動物、海の生き物、恐竜、星座、世界遺産など、さまざまなアイテムがゲットできます。ごほうびには、手に入れたアイテムと関連する博物館や動物園に行ったり、図鑑を買ったりするのも親子の会話の広がりにつながると思いますよ。

目的は監視ではなく「自己肯定感」を高めるきっかけ作り 「しゅくだいやる気ペン」開発秘話

「外発的動機」から「内発的動機」へと誘うしくみ

――そうすることで、食べ物や動物、世界遺産など、新たな興味のきっかけが与えられたら素敵ですね。子どもが好きなもの、興味を抱くものを見つける入り口になるかもしれません。

このペンは、最初は「勉強したらアイテムがもらえる、だから頑張ろう」という外発的動機で進むんですが、それが次第に内発的動機に変わってくる。そこがこの商品の一番の価値だと思っています。親子で会話しながら、子どもが興味を持っていることが何なのかわかってくるんです。

我が家には10歳の娘と7歳の息子がいるんですが、上の子は休日に動物園に行くことが決まると動物の生態について調べて、ノートにギッシリ書いて見せてくれるんですよ。僕がそれを見て勉強させてもらってるくらい(笑)。そうした経験は、ペンを卒業した後も親子関係の中に残るし、興味が自分の中にちゃんと残っていくはずです。

目的は監視ではなく「自己肯定感」を高めるきっかけ作り 「しゅくだいやる気ペン」開発秘話

――ゲームとしてはシンプルだからこそ、そこに親子の関係が入る余白があるわけですね。

使い方としては正直、面倒くさい工程を入れているんです。やる気パワーをためて、親のスマートフォンのアプリ画面を開き、「やる気の木」に水を注ぐ動作が必要になります。でも本当はこの工程をカットして、親のスマホに直接、学習時間のデータを送る仕組みにもできるんですよ。あえて、わざわざ親のスマホを使う作業を入れることで、「僕は今日これだけ頑張ったんだぞ」ということを親にアピールしてほしいし、親も「〇色になったね」「おもしろいアイテムをゲットできたね」などと具体的な言葉で褒めてほしいんです。

変わったのは子どもよりも大人。親が褒め上手になれる理由

――親御さんからは「褒め方がうまくなった」という感想があるようですね。

子どもの宿題への向き合い方が変わるだろうと思っていたんですが、結果的には親の子どもへの接し方、声のかけ方などが変わったというアンケートの回答が多かったんです。これはすごくうれしいですね。ほかに「初めて子どもが自分で手紙を書いてくれました」というものもありました。「なかなか宿題に取りかかってくれない子が、この商品を使ったら自分からやり始めて、その姿を見たら泣きそうになった」なんてお便りもいただいています。

改めて感じたのは、家庭ごとに子どもの学習に関する困りごとの深さやバリエーションは千差万別だということ。声のかけ方も、子どもによって、家庭によって、あるいはその時々で効果的なものは違う。だからこそ、誰にでも有効な万能薬はなく、その子がいま、何に興味を持って何を考えているかと向き合うことが必要だということですよね。

――最短距離で正解を導く作り方ではないのは、大きな特徴ですね。

目的は監視ではなく「自己肯定感」を高めるきっかけ作り 「しゅくだいやる気ペン」開発秘話

何が子どものツボにハマるのか、親御さんはしゅくだいやる気ペンを通して観察していただきたいです。例えば「やる気のキロクをみる」では、宿題をやった日に花マルが表示されるようになっているのですが、花マルをもらうということは、子どもにとって自信になるんですよ。また、ペンが動いた時間がグラフでも見られるなど、やる気をいろんなパターンで見える化しています。どの見え方がいちばんピンと来るかは子どもによって違います。アイテムが増えるのがうれしいという子もいるし、グラフで毎日頑張っている軌跡を見るのがたまらないという子もいるんです。

子どもの頑張りの「見える化」によって 親も振り返りができる

――子どもの頑張りを親が見るのって、テストの点や通知表になりがちです。本人としては頑張ったのに、「もっと頑張らないと」なんて思ってしまうこともある。でも、記録を見ることで親が子どもの頑張りを振り返れるわけですね。

答えにたどり着く瞬間はいつか必ず来るんです。でも、そこに至るまでの道のりは個人差があって、心折れずに毎日頑張ることを応援してあげたいんです。それに、このペンを使っていると、うれしいことに子どものほうから勉強のことで親に寄ってくるんですよ。「俺、青になるまでやったぜ」とか、わざわざ見せに来る。点数じゃなく、そこに向けた軌跡を親にわかってほしいという思いが子どもにはすごくあるんです。

――実は子どもって、昔も今も変わらず、花マルとかシールとか、すごく喜びますしね。

そうなんです。もっとユニークなアクションとか、アイデアはいっぱいあったんですけど、結局花マルが一番(笑)。見せ方も、すごろくで自分の努力が一歩一歩ゴールに近づいていくというのが、子どもにとってはすごく高揚感があるようです。

今回、特に面白いと思ったのは、子どもが意外なくらいちゃんと勉強すること。ペンを手に持っていると、微小な振動に反応してパワーがたまるしくみなので、子どもたちがいい加減にペンを動かしてパワーをためてしまわないかと心配していたんですが、真面目にやるんですよ。みんな基本的には勉強するのが好きなんだなと思います。だから、ちゃんと学ぶ中でためて、頑張ったというアピールをしてくれます。それに対し、親がちゃんと受け止めて話をすることが重要です。宿題をやった・やらない、答えが合ってる・間違ってるで判断すると、子どもの学びたい芽をつんでしまうんじゃないかと思うのです。

目的は監視ではなく「自己肯定感」を高めるきっかけ作り 「しゅくだいやる気ペン」開発秘話

自己肯定感のきっかけ作りに最適な時期を見逃さないこと

――このアイテムが特におすすめなのは、何歳くらいの子ですか。

小学2〜3年生くらいですね。理由は二つあります。2〜3年生は、学習量が増えて、少しずつ内容が複雑になってくるため、集中して勉強を始めるようになる時期だということ。家庭学習の大切さが問われるのも、2~3年生の勉強からです。もう一つは、10歳くらいになると、子どもが親から離れるフェーズに入ってくるため、そこに至るまでに「しゅくだいやる気ペン」を通してたくさんコミュニケーションをとることで、親子の良い関係の土台を作っておこうということ。親の影響がすごく大きいのが2〜3年生までなので、親子の距離が少し離れる手前の段階で、自己肯定感のきっかけとなる「好きなこと」「興味のあること」を見つけるお手伝いができればと。

例えば、うちの下の子は書くことがすごく苦手で、最初は日記を1行くらいしか書けませんでした。でも、このペンを使って書く楽しさを覚えると、今週末何をしようかと、書くことを考える習慣が身についたんです。やがて「今週書くネタがないから、どこかに連れていってよ」と言うようになって。書くことができるようになると、自然と思考が変わって行動も変わる。こんな小さい子にも起こる変化なんだなと思いました。

――メインターゲットが小学校低~中学年ということで、高学年向けのしゅくだいやる気ペンを作ってほしいという声もありそうですが。

実際に問い合わせも多くいただいています。高学年向けの開発は未定ですが、今のモデルに関しては、想定していなかったほどのスピードで進める子もいるため、18ステージの後に庭をアップデートで追加しようとしています。

それからAndroid版の開発も検討中です。しゅくだいやる気ペンで学びの楽しさを得た子どもたちに、次にどんなことを提供できるのか。そんな視点で、アプリもアップデートしていきますし、プラスになるサービスを作っていきたいと思っています。

(撮影:辰根 東醐 編集:阿部 綾奈/ノオト)

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