子どもの健康

夜型生活はトラブルのもと 子どもの学習能力を引き出す睡眠改善テクニック

2020.01.14

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有馬 ゆえ
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「寝る子は育つ」の言葉通り、小学生には9~11時間もの睡眠時間が必要だと言われています。塾や習い事、部活、遊びと多忙な現代の小学生は、睡眠不足に陥りやすく、また夜型化しがちだそう。睡眠障害の専門家である井上雄一さんに、その影響と、子どもの睡眠改善法について聞きました。

話を伺った人

井上雄一さん

睡眠総合ケアクリニック代々木理事長、東京医科大学睡眠学講座教授

(いのうえ・ゆういち)睡眠学(Somnology)のエキスパートとして、日本睡眠学会特任副理事長(国際担当)、日本薬物脳波学会理事などを務める。睡眠障害に診療、研究、啓蒙、教育など多方面からアプローチ。睡眠総合ケアクリニック代々木では、内科、精神科、耳鼻咽喉科などの医師と連携しながら、専門的な治療を行っている。

原因は塾やゲーム、スマホ 小学生の夜型化が進んでいる

夜型生活は学力低下、不登校をも招く 子どもの学習能力を引き出す睡眠改善テクニック
出典:「小学生白書Web版 (2018年9月調査)」(学研教育総合研究所)

――「小学生白書Web版」(学研教育総研/2018年9月調査)によれば、22時以降に就寝している子どもは、小4で42.5%、小5で51.5%、小6で63.0%だそうです。最近の小学生の睡眠は、どんな傾向にあるのでしょうか。

睡眠研究の世界では、そもそも思春期になると就寝時間が遅くなり、夜型化しやすいと言われています。ただ、普段の診療を通して感じるのは、日本の子どもが夜型化し始める時期は早まっているということ。ここ5年ほどで、睡眠に問題を抱える小学校高学年のお子さんが増えました。

夜型化が進んだ要因は、中学受験のために遅い時間まで塾に行ったり、夜遅くまでゲームやスマホで遊んだりしていること。脳と体の発達を考えても、小学生には最低でも9時間は睡眠が必要です。朝7時に起きるなら、22時には就寝しないといけない。しかし実際は、0時まで起きている子も少なくありません。

睡眠中は、日中に活性化する交感神経を休めたり、体を成長させたり、記憶を定着させたり、脳をクリアな状態にしたりと、さまざまなことが行われています。つまり、睡眠不足は多くのデメリットをもたらすのです。

睡眠不足は、学習のパフォーマンスや人間関係にも影響する

――小学生が睡眠不足になると、具体的にどのような影響があるのかを教えてください。

睡眠が足りないと、眠気や全身のだるさを感じやすくなります。すると集中力が落ち、だらしなさや落ち着きのなさにもつながる。脳の働きも悪くなるため、学習のパフォーマンスも低下していきます。

不安が強くなったり、情緒不安定になったり、うつ傾向になったりと、情緒面にも影響します。こうした心身の不調は、学力低下、運動能力低下にまで発展すると考えられます。

――一時的ならまだしも、睡眠不足が続くと生活に支障をきたしそうですね。

そうなんです。まず、体内時計が夜型化してしまうと、朝、起きることができなくなります。起床するべき時刻に、血圧が上がり始めないからです。

「低血圧で起きられない」と言う人がよくいますが、それは間違い。もともと人間の体は、朝になると血圧が上がるようにできています。しかし、体内時計がずれると、血圧の上がり始める時刻も同様に後ろにずれてしまう。

7時に起きようとしても、体内時計が2時間ずれていれば、血圧が上がり始めるのは9時。だから起きられないのです。

朝、起きることができないせいで、不登校になる小学生もたくさん見ています。今、ここに通っているだけでも100人近い。遅刻するから、登校時に友だちと約束ができなくなって、友人関係が悪化し、学校に行けなくなってしまうんです。

――人間関係にまで影響してしまうのですね。

親子関係にも響きます。睡眠問題をめぐって親子仲にトラブルが生じている家庭は、15家庭に1家庭はあると思いますよ。

大人と違い、子どもは朝方まで眠りが深いもの。体内時計が後ろにずれていれば、なおさらです。眠りが深い状態で無理に子どもを起こすと、寝ぼけて酔っ払ったときのようになる「睡眠酩酊」に陥りやすい。すると、不機嫌になったり、ときに暴力的になったりして、親とトラブルになるのです。

夜型生活は学力低下、不登校をも招く 子どもの学習能力を引き出す睡眠改善テクニック

体内時計を正常化するための夜型化防止テクニック

――子どもの生活が夜型化するのを予防、改善するためには、どんな対策を取ればいいのでしょうか。

体内時計を前倒しするよう、子どものプライベートライフを調節するほかありません。遅刻、欠席が目立ってきたり、不登校になったりと社会生活に支障をきたせば、それはただの睡眠不足ではなく、立派な病気です。

いくら熱心に夜遅くまで塾で勉強をしても、受験に支障が出ては意味がない。試験の日の朝、起きられなくて試験が受けられなかったり、試験中に寝てしまったりした子も知っています。下記のような方法で、体内時計を正常化していきましょう。

■子どもの夜型化を改善するテクニック

(1)朝、30分早く起きて親子で散歩をする
いつもより30分早く起床して、親子で一緒に散歩を。朝の光を浴び、活動することで体が覚醒し、生活リズムの改善に役立つ。親子の会話が増えるので、コミュニケーションの修復にもつながりやすい。夜はもちろん、9時間以上の睡眠を確保できる時間に就寝を。

(2)週末に寝だめをしない
平日の睡眠不足を補うため、週末に遅起きする子どもは多い。しかし1時間でも起きる時間がずれると、体内時計が狂い、睡眠時間は足りていても、日中の眠気やだるさ、精神的な不安定さにつながる。長期的には成績悪化を招くというデータもある。

(3)食事の時間を一定にする
消化管にも体内時計のスイッチがあるため、食事の時間がずれると体内時計に影響する。そのため、食事を取る時間は一定にするのがベスト。塾や習い事などで夕食の時間がずれそうな場合は、帰宅後に夕食を取るのではなく、出かける前に半分の量、帰宅後に半分の量という食べ方にすると体内時計の維持につながる。

(4)スマホ、ゲームは朝にする
朝の光、とくにブルーライトは体を覚醒させる。スマホ、ゲーム機のブルーライトは波長が短くエネルギーが高いため影響が大きく、夜型化を招く大きな要因に。夜は寝室や自室に持ち込ませないなどのルールを作り、朝早く起きて遊ぶ習慣作りを。

(5)夜の予定を調整する
塾や習い事などで毎日、遅くまで活動していると、睡眠不足と夜型化は進む一方。週に5日のところを1日減らしたり、終了時刻を早めたりと、できるだけ早寝できる環境作りをして、睡眠時間の確保に努めたい。

夜型生活は学力低下、不登校をも招く 子どもの学習能力を引き出す睡眠改善テクニック

夏休みの過ごし方が夜型化するかどうかのキー

――睡眠に問題を抱える小学生の患者さんが増えやすい時期はありますか?

小学生の受診者が増えるのは、12月の初めぐらいからです。中学受験を控えて、あわててくるケースが多いですね。

しかし、体内時計の治療は、時間がかかるもの。外来で集中的に治療しても、3~4週間かけて1時間ほどしか動かない。日の出の遅い冬に治療しようとすると、太陽光に似た光を出す機械を購入したりしなければならず、余計に費用がかさみます。

ただ本来、生活リズムが崩れやすいのは、夏休みの時期。長期休暇なので、自由気ままに生活し続けていると、体内時計がどんどん乱れていくわけです。

一方で、朝からしっかりと太陽光が差す夏休みは、体内のリズムを調整しやすい時期でもある。この時期、朝に活動する習慣をつけておくことは、とても重要です。

――なるほど。学校の勉強に塾、習い事、宿題、ゲーム、友人とのコミュニケーション。最近の小学生はタスクが多いですよね。

そうですね。保護者の方はぜひ、「いつしなければならない」という思い込みを外し、隙間時間でタスク処理ができるよう一緒に考えてあげてください。

朝、早く起きて趣味に没頭してもいいし、通学の時間が長いならそのあいだに宿題を済ませるのも手です。夜遅くにSNSのコミュニケーションに時間を費やしがちな子には、他人に合わせて自分の生活リズムを変える必要がないことを説明した方がいいと思います。

もしかすると今後は、時間の使い方について親子で話し合う必要性がより高まるかもしれません。というのも、教育にWebシステムを取り入れることが、夜型化に拍車をかける一因にもなりうるからです。

あるアジアの国では宿題の提出期限が深夜0時に設定されているため、宿題を提出した後に食事をして遊ぶという生活リズムになり、学校に行けなくなる子どもが続出しているそうです。夜遅くまでブルーライトを浴びているのも、不眠につながっていると予想されます。

――「自分の人生を他人にコントロールされない」というのは、大人になっても大事な心がけですよね。

家族も街も寝静まった夜に活動するのは、子どもにとっては魅力的でしょう。私自身も経験したのでよくわかります。でも、充実した人生は心身の健康あってこそ。「早く寝なさい!」というだけでなく、一緒に人生をクリエートしていく気持ちで睡眠の改善に取り組んでほしいと思います。

(撮影:辰根 東醐 編集:阿部 綾奈/ノオト)

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