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救急救命士試験合格者数No.1 国士舘大学 知識を身につけ「現場のリアル」学ぶ

2020.01.15

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鈴木 絢子
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国士舘大(東京都世田谷区など)は2000年、4年制大学として初めて救急救命士をめざせる学科を開設した。これまでに2千人を超える救急救命士を送り出しており、18年の国家試験合格者数実績でも、全国の大学でトップとなる146人が合格した(朝日新聞出版「大学ランキング2020」から)。(写真提供/国士舘大)

徹底した現場主義

救急救命士とは、救急搬送の際、患者に薬剤を投与するなどの医療行為ができる資格だ。民間養成機関からの合格者の多くは、同資格取得に加えて消防官採用試験を受け、各自治体の消防本部に就職する。新人でもミスが許されない職業であるため、養成機関ではいかに実際に即した指導ができるかが問われる。

国士舘大の体育学部スポーツ医科学科で教鞭をとる張替喜世一(はりかえ・きよかず)教授は、自身も救急救命士の実務経験をもつ「現場派」だ。採用する側と学生の双方のニーズに応えるべく、カリキュラム作りも常に工夫を重ねている。

「養成講座では医師が講師を務める場合もありますが、特に実習授業では現場の実態を伝えきれないことも。本学には救急救命士としての経験が豊富な講師も多いので、学生も授業を通じてリアルな体験ができるはずです」

海やプール、雪山での救助実習、実際の救急搬送に立ち会う救急車への同乗実習、病院での実習。そのほかに海外の消防署を視察する研修など、同大では、学外の多彩な実習に注力している。だが、張替教授は「大切なのは実習だけではない」とも語る。

「基礎知識習得のためには座学も重要なので、授業外の予習・復習もしっかりやらせます。知識が身についているからこそ、実習でも現場でも適切な動きができる。めざしているのは『頭と手がつながる教育』です」

大学で学ぶメリットを生かし、養護教諭の免許取得を同時にめざす学生もいる。課題も多く他学部と比べても忙しいというが、ほとんどの学生がへこたれずに夢を叶えるという。同大は消防官の採用人数でも全国1位だ。

「実績を生む最大の要因は、学生一人ひとりの努力にほかなりません。みんな入学前から『救急救命士になって人を助けたい』という熱い思いをもっています。試験合格はスタートラインに過ぎず、すでにその先を見据えている。だから頑張れるのでしょう」

救急救命士試験合格者数No.1 国士舘大学
「意識障害」をテーマに行われた実習の授業風景。国家試験に出題された問題から講師がシナリオを作り、傷病者役や家族役も学生が演じながら学ぶ(撮影/朝日新聞出版写真部・掛祥葉子)

初志貫徹で「地元を守る人」に

秋山実紅さん(体育学部スポーツ医科学科4年)が救急救命士を志したのは高校生のとき。一緒にいた友人が突如倒れたことがきっかけだ。

「駆け付けた救急隊員の方を見てとても安心したし、かっこいいと思いました。小さいころからいろいろなスポーツを続けてきて、体を動かすことは好きでした。自分の得意なことと、人の役に立つことが両立させられる。この仕事に就きたいと思うようになりました」

国士舘大の大学生活の中で、秋山さんはさらに職業への思いを強くしていった。

「救急救命士OBの先生の授業では、救急要請があった場所の写真を見せてもらったり、実用的な知識を教わったり。『聴診器は屋外で使うと心音が聞こえづらい』など、たしかにその通りですが、言われてみないとピンとこないこともありました」

また、ともに学ぶ友人たちの存在も大きかった。実習に取り組むグループの仲間とは結びつきが強くなり、実習以外の勉強も一緒に頑張ることができたという。実はそれも、大学のねらいだ。

人が人を助けるという仕事において、コミュニケーション力は必要不可欠です。班ごとに実習や課題に取り組むことで、働くうえで重要な仲間意識も育っていくのです」(張替教授)

秋山さんは東京都出身。4月には東京消防庁に入庁することが決まっている。「世界一の規模を誇る消防本部で、いろいろな人にかかわってみたい」と言う。張替教授は就職指導について次のように語る。

「自治体によって消防のカラーはまったく違います。上京した学生は大都市に憧れることも多いですが、地方だと一人ひとりの裁量が大きいというメリットもあります。どちらが合うかは個人によるし、育ってきた土地に貢献したほうがいいと、まずは地元に帰るよう助言しています

秋山さんも「自分が知っている土地の人を守りたい」と考えている。大学OBに各地の消防本部の話を聞いたことも役立った。東京消防庁にも、国士舘大の先輩が複数いるそうだ。

救急救命士試験合格者数No.1 国士舘大学
左から張替喜世一教授、秋山実紅さん、杉木翔太さん。秋山さん、杉木さんが着ているのは大学指定の実習着(撮影/朝日新聞出版写真部・掛祥葉子)

大学で見つけた新たな選択肢

杉木翔太さん(大学院救急システム研究科1年)は大学受験前、人のためになる救急救命士になろうと考えて学校を探した。資格を取れる学校は出身地の福岡県にもあったが、環境や実績に魅力を感じて国士舘大を選んだそうだ。

「昔からやっていた野球を大学に入ってからも続け、アルバイトもしていました。でも一番大事なのはもちろん勉強。とにかく学部時代は忙しくて、時間の使い方もかなりうまくなったと思います」

救急救命士になるために学ぶうち、杉木さんの夢に変化が生じ始めた。

「現場を知る先生の講義を受けて、教科書に載っていない生の情報に圧倒されました。また、危険の伴う救助実習では、学生の安全を守りながらしっかり指導してくれる。そんな姿を見て、自分もこんなふうに教えられる人になりたいと思いました」

ロサンゼルスでの海外研修では、杉木さんは日本とアメリカの消防の実情の違いに興味を持った。

「日本では救急救命士のほとんどが公的機関に勤めますが、アメリカでは民間救急の機関も有力な選択肢であるなど、さまざまな違いがあります。海外を見ることは、日本の救急救命の状況について考えるきっかけになりました」

大学での実習を通じて、杉木さんは救急救命の次代を担う人材を育成することに携わりたいと考えるようになった。大学院に進みたいと話した当初、実家の両親には猛反対されたという。

「卒業したら地元の消防隊に入る約束だったので、家族にはとても驚かれました。でも大学に来なければこの選択肢はなかった。どうしてもやりたいという熱意を伝え続けて、最後には『がんばれ』と言ってもらうことができました」

もちろん、いつかは地元で働きたいという思いも持ち続けているそうだ。

自らが感銘を受けた現場主義を体現するように、杉木さんは国士舘大と提携する都内救急病院で救急救命士としての実務もこなす。その当直明けに、アシスタントとして実習指導に当たることもある。学部時代よりハードな毎日だが、杉木さんは「もっと学び続けたい」と語る。

救急救命士試験合格者数No.1 国士舘大学
大学が所有する救急車は、3年次に行われる「患者搬送実習」で使用される。実際の救急車と同じ設備でリアルな体験をすることができる(撮影/朝日新聞出版写真部・掛祥葉子)

メモ

国士舘大 1917年、前身となる私塾「国士舘」を創設。53年に国士舘短期大学を開設。58年に開学し、体育学部を設置した。メインキャンパスは東京・世田谷で、多摩、町田にも拠点を構える。学部学生数は1万2700人(2019年5月1日現在)。

救急救命士試験合格者数No.1 国士舘大学

<コラム>救急隊員に医療行為ができなかったことから、1991年に国家資格として制度化されたのが救急救命士だ。消防署の救急隊員として資格を活用する人が大半だが、医療機関の救急救命センターや救急外来で補助要員として働いているケースもある。厚生労働省の発表によると、2018年に実施した国家試験は、3015人が受験し、2562 人が合格。合格率は85.0%だった。

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