海外の教育事情

10歳で進路が決まる?! 「受験のない国」ドイツの教育事情

2020.01.04

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雨宮紫苑
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日本と同じく戦後、目覚ましい経済発展を遂げたドイツ。国の面積や国民性が似ていることから、しばしば日本と比較されてきました。しかし、その教育制度は日本とはかなり異なっているのだそう。今回は、大学在学中にドイツ留学を経験し、卒業後に移住した雨宮紫苑さんに、ドイツの教育事情を解説していただきました。

「受験」はないが、「選別」があるドイツの教育制度

「大学入試改革!」と意気込んでいたものの、ふたを開けてみれば、目玉である大学入学共通テストでの英語民間試験の活用や記述式問題の導入は延期になるという。「受験時期は刻一刻と迫っているのに」と困惑している方も多いだろう。

さて、そんな迷走具合を横目に、こう思うことはないだろうか。「受験がない国もあるんだから、いっそのこと受験をなくしちゃえばいいのに」と。

実際、「日本の学生は受験勉強には熱心だが、入学後には勉強しない」という批判は、長らく続けられてきた。そして、「大学は入り口を広くして、出口は狭くすればいいんじゃないか。例えば、ヨーロッパのように」と続くのが、定番の主張である。

日本の友人と話していても、わたしが住んでいるドイツをはじめとしたヨーロッパの国々に対し、「だれでも大学に入れて学費は無料」「学生がちゃんと勉強する教育制度」というイメージを持っている人は多い。

その主張が「間違っている」とまでは言わない。しかし、決して「正しく」はない。というのも、「受験」という形の競争がないだけで、ドイツでもしっかりと「選別」が行われているからだ。

ドイツの「選別」は、小学校卒業のタイミングではじまる。

小学校は4年制で、その後の進路は主に、三つのコースに分かれる。基幹学校、実科学校、ギムナジウムだ。

ここで重要なのが、どの学校の卒業資格を持っているかによって、その後の進路が大きく変わるところである。

ドイツの教育は州の管轄なので一概にはいえないが、簡単にまとめると、下記のようになる。ただし、これはまったく違うドイツの教育制度をあえて日本式に例えた「イメージ」でしかないので、そのあたりはご了承いただきたい。

ドイツにおける一般的な教育課程

・基幹学校…5年制。卒業後、職業訓練を受けながら働くのが一般的。例えるなら、中卒で就職、もしくは定時制高校に通いながら働くコース。

・実科学校…6年制。卒業後、上級専門学校に進んで職業教育を受ける人が多い。場合によっては、単科大学に入ることも可能。例えるなら、工業高校や商業高校から専門学校進学コース。

・ギムナジウム…8、9年制。卒業後、大学に入学することができる。例えるなら、中高一貫校から大学進学コース。

注意したいのは、一般大学に入学するためにはギムナジウムの卒業試験である「アビトゥーア」の受験が必要なので、大学を目指すならギムナジウム進学がほぼ必須ということだ。

例えば、基幹学校卒業生は、大学に入学する資格はない。もし大学に行くならば、「基幹学校でいい成績をおさめて実科学校に編入し、卒業後ギムナジウムに編入する」という、極めて高いハードルを越える必要がある。

つまり、ドイツでは小学校の後、どの学校に進むかによって、人生の大まかな方向性が決まるのだ。

10歳の子どもはどう進路を選択するのか?

では、肝心の進路はどのようにして決まるのだろう。

まずは当然、成績が基準となる。成績が悪ければ、ギムナジウムには進学できない。加えて、「子ども本人の意思」も尊重される。

とは言いつつ、それは表向きの話。10歳程度の子どもが、将来を見据えた進路選択をするのは正直難しい。だから、進路決定には親の学歴や意向が強く反映されてしまう。

こういう制度なものだから、「進路選択が早すぎる」「親の学歴の影響が大きい」という批判は常にされてきた。それを受け、最近は早期分岐方針も緩和されつつある。

子どもの学歴と親の学歴の関係
出典:「Statistisches Jahrbuch 2019」(ドイツ連邦統計局

面接を重ねて本人の意思を尊重するように配慮したり、進路選択のタイミングを遅くする学校制度を導入したり、基幹学校・実科学校・ギムナジウムの横移動をしやすくしたりと、ドイツも試行錯誤中だ。

ドイツで塾に通うのは、成績が悪い子ども

ドイツで学校の成績が重視されるのは、なにも進路選択のときだけではない。

ドイツには小学校ですら留年制度があるため、最低限の成績はとっておく必要がある。また、ギムナジウムに進学しても授業についていけなければ、実科学校に編入する、もしくは「せざるをえない」場合もある。

学校での授業も、「先生の話を聞く」ことがメインの日本とは少し異なる。「ドイツ人は議論好き」というイメージがあるが、これに関してはまったくそのとおりだ。

このように「理解して自分の言葉で表現する」ことを重視しているため、テスト前の一夜漬けではなかなか成績が上がらない。その上、学校の成績で進路選択の幅が変わるのだから、親にとって子どもの成績は常に気がかりだ。

そこで登場するのが、「塾」である。

ドイツの塾は、学校の授業へのフォローの場。塾を必要としている子どもは主に、苦手科目があり成績が悪いので、ドイツの塾は個別指導が中心だ。また、塾の代わりに家庭教師を雇う親もおり、大学の掲示板には「うちの子の家庭教師をお願いします」という貼り紙がいくつも並んでいる。子どもの学校の成績を上げるために腐心する親心は、日本もドイツも同じだ。

ちなみに、「塾に通っている」は「学校の授業についていけていない」という意味になるので、通っていることを隠したがる子どもや親も少なくない。

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