『ドラゴン桜2』桜木建二が教える 2020教育改革

物理は「答えのないものを探る世界」 思考力培えば社会でも万能 日本には長い伝統

2020.01.30

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桜木 建二
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前回は、物理学者の村山斉さんから、子どもに理科への興味・関心を持たせるにはどうしたらいいか聞き、「大人が好奇心の芽をつまないようにすること」「理科好きになるきっかけは身の回りにある」とのアドバイスをもらった。今回は、村山さんの研究分野である「物理」の世界のおもしろさについて、教えてもらったぞ! 物理は「答えのないものを探る世界」というが……。

自由研究は成功体験を得るチャンス

桜木:前回、「学校でおこなう『実験』も大事にしましょう」とアドバイスをもらった。

「実験」と並んで理科に特有な課題として、夏休みの自由研究がある。

休みが終わるころにあわてて仕上げた向きも多かろうが、あの課題は理科の勉強の一環としてうまく活用できるものなのだろうか。

村山:こちらも、ぜひしっかり取り組んでいただきたいです。自由研究は、成功体験を得るチャンスです。どのようなテーマであれ、自分で決めた課題を最後まで仕上げる機会というのは、なかなかないものですからね。

疑問に思ったことを調べてみれば、何かしら説明が立てられ、自分なりの答えを導けて、理解に到達できるんだということを実感できる。大切なことですよ。

桜木:つい親が出しゃばってしまうというのも、自由研究ではよくあるパターンなのだが、どれくらい関わるのが適切なのだろう。

村山:少なくとも答えを大人の側から指し示してしまうことは、しないほうがいいでしょう。

基本的には、興味関心を共有すること、いっしょに驚いてあげること、調べを進めるにあたって手助けをしてやるといったところにとどめるべき。いっしょに学ぶ仲間のひとり、というスタンスがちょうどいい距離感ではないでしょうか。

桜木:自由研究には明確な解答や正解がなさそうで、どうにも手応えがなく感じられてしまうのだが……。

村山:それこそ本当の学びというもののかたちです。答えのないものに挑む体験を、早いうちからやっておくべきです。

むしろ学校の授業や受験でおこなうような、「問1の答えはこれ、問2の答えはこっち」と逐一答え合わせをしていけるような勉強が、学びの土台をつくるための特殊なものだと考えておくくらいでちょうどいいですよ。

ドラゴン桜2 201030
『ドラゴン桜』パート1から(C)三田紀房/コルク

答えのないことを探る物理の世界

桜木:なるほど。

村山:私自身、好きな物理の学びを進めているうちに答えのない領域へ入っていき、そのとき初めて学問研究の真のおもしろさに気づき、いっそうのめり込んでいった経験があります。

理科に特別な興味を抱くようになったのは中学生あたりのことでした。それからあれも理解したい、これも理解したいと勉強をしていって、大学でも物理を専攻しました。

大学院へ進むころになって、ふと気づいたんです。ああ自分はもう答えのないことを探る場所にいるんだなと。

それまでは、答えを得るためにあれこれ調べたものですが、いつの段階かで答えがない問題があると勘づいたんですね。世の中にはわかっていないこと、まだだれも知らないことがある。それを知りたいからみずから研究をするのです。

もちろん研究者になる人というのは世の中全体でみれば圧倒的な少数派ですし、子どもを研究者にしたい親御さんも少ないかもしれません。

ただ、成功体験を経て、何らかの対象に興味・関心を強く抱き、探究しているうちに答えのない領域に踏み込んでいくというプロセスの体験は、どんなジャンルに関わっていくにしてもたいへん役に立つものだと思います。

道筋を立てる力がつく物理

桜木:答えのないことについて考えたり調べたり、研究したりして道なき道を進む。

それこそが物理にかぎらず学びの醍醐味なのだろうか。

村山:そうですね。そうなるとがぜん楽しくなってきますよ。

たとえば私たちが論文を書いているときって、世界でまだだれも知らないことを自分だけが知っているという瞬間があります。それをのちに発表して、共有の知にしていくわけですが。新しいところを切り開いているんだという感覚は、なかなか気持ちいいものです。

でもこれは、研究者にかぎったことではありませんよね。

ビジネスの世界でも、これまでのモデルがうまくいかない、何かを刷新しなければいけない、次の一歩はどちらに踏み出すべきかという状況はよくあるでしょう。

そのとき人は答えのない問いに直面しているわけで、来たるべき一歩は自分で考え、編み出さなくてはいけません。

ほかの人の成功体験は本や新聞に書いてあるかもしれませんが、自分が取り組んでいることに対してどの成功体験があてはまるかは、みずから判断するしかありません。指針となる考えが自分の中に確固としてなければ、決断することもできませんよね。

わからないことは考えたり調べたりして明らかにし、それらを判断材料にしながら自分の中に明快な論理や指針を打ち立てて、しかるべき選択をしたり結論を導き出したりする。

そうした能力は、たとえば物理を学ぶことで養っていけるわけです。

これからの時代に必要な力が育つ

桜木:そうして養った「自分軸」は、社会に出てからも役立つということだな。

村山:はい。

私はときにお声がけをいただいて、経営者の方々の会合で話をさせていただくようなことがあります。

宇宙開発をする企業が集まっているわけでもないのですが、聞けば科学的なものの考えかたや思考法を参考にさせてほしいということのようです。

従来のビジネスモデルが通じなくなって、新しいモデルを模索している企業・業界は多いですね。だれかが新しいパラダイムをつくり出さないと、早晩行き詰まってしまうような状況です。

幅広い興味・関心を持ち、自分の知っていることを総動員しながら次の一手を考えられる人が、これほど求められている時代もまたとないでしょう。

そうした柔軟な思考を育める場は、じつは意外に身近なところにあります。そう、小学校からの算数や理科の勉強です。

「こんな計算ができるようになったって、何の役にも立たない……」などと文句をいいたくなることもあるでしょうが、そんなことはない。

そこで培った「考える力」は、のちにあなたが生きていくうえで大いに活用できるし、生きる支えになってくれるはずです。

日本人研究者が多く活躍する物理の分野

桜木:うーむ。

村山:研究者になるのではなくとも、科学的な思考法はのちのち、オールマイティな力を発揮してくれるものなのです。くわえて科学的思考は、実用的なことのみならず、広く「豊かさ」みたいなものをわれわれにもたらしてくれます。

たとえば宇宙のことを知りたいと思う気持ちは、それを仕事にしている人以外にも強くありますよね。知ったところで直接の益があるわけじゃなくとも、です。

それはおそらく、宇宙が私たちの故郷だからです。

あらゆる物質や生命は、宇宙からやって来ました。私たちの身体をつくっている原子は、昔々に爆発した星のかけらに由来しているものなのです。

宇宙のしくみを知って何になるのか?と疑問を持ってしまう気持ちもわかりますが、いえいえ故郷ですからね、というのが答えであっていいと思います。

そう考えると、宇宙のことなんて関係ないといえる人はいなくなりますよね。すべての人の心の豊かさにつながっていますから。

日本は開国前から「物理」に親しんだ

桜木:ときに物理の分野では、日本人研究者が非常に幅広く活躍している。なぜなのか。

村山:そう、不思議なんですよね。日本人のノーベル賞受賞者を通覧しても、物理学分野での受賞がかなり多くなっています。

はっきりとした理由はわかりませんが、推測するに、じつは長い歴史に培われてきた伝統の力があるんじゃないでしょうか。

もともと物理学とは西洋文明の一部であって、明治維新ののちに日本に流れ込んできたものです。が、日本ではわりとすんなりこの異国の学問を受け入れ、吸収してしまった。なぜそんなことができたのでしょう。

すでに日本社会にその素地があったと考えるよりほかありません。日本では開国のずっと前から、西洋とは異なるかたちで物理学の体系があったようなのです。

江戸時代にはすでに、関孝和らが大成させた和算があり、微分積分の術が知られていました。一般の人が数学の定理を証明して神社に奉納する算額という風習もありました。

そうした伝統があったゆえに、急に西洋文明が入ってきても、それを理解し応用して、独自の産業を築くことができたのでしょう。

日本では古くから数学・物理の基礎が社会に浸透していた。そのすそ野があったから、最先端の研究も花開き、ノーベル賞などにもつながっていったのだと考えられます。

日本という国は、世界でもまれなほど資源に恵まれていません。地理的な条件も決してよくはない。それなのに、これだけ強い産業が興り、独自の文化が培われてきたというのは、やはり驚くべきことです。

それを支えてきたのは、一人ひとりの考える力やアイデアの力だったことでしょう。これからの日本が大事にしていくべきものも、考える力やアイデアを出す力を養う学びにほかなりません。

学ぶ気持ちや姿勢を大切にしてうまく育てていけば、そこから未来が見つかっていくのだと思います。

ドラゴン桜2 201030

(ライター・山内宏泰)

※この連載の最新版は、LINE NEWS「朝日こども新聞」(月、水、金 8:30配信)で読めます。

話を伺った人

村山斉さん

物理学者(素粒子物理学)

(むらやま・ひとし)1964年3月21日生まれ。米国・カリフォルニア大学バークレー校教授。東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究者、教授。国際基督教大学高等学校卒業後、東京大学理学部に進学。東北大学の助手を経て米国に渡り、研究活動をおこなう。写真は©Kavli IPMU

『ドラゴン桜2』

作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式マガジン」(note)で連載中。

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