『ドラゴン桜2』桜木建二が教える 2020教育改革

算数が苦手でも理系進学をあきらめないで! 福岡伸一さんが説く「理系脳」

2019.12.19

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桜木 建二
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文系か理系か、それが問題だ! 進路を考えるとき、みなが真剣に悩むポイントはそこだな。本来なら「文系」「理系」というカテゴリー分けは、大学で本格的に学問を始めるときにようやく必要となるものに過ぎない。それなのに親はつい、文理の選択はまだ先であろう小学生のころから、心配してしまうものだ。そのあたりを、『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)などの著作で知られる、生物学者の福岡伸一さんにぶつけた。

算数が苦手だからといって、理系の進路をあきらめるのは愚!

桜木:実際のところ、文理どちらが得意なのかを、早い時期から見極めることなんてできるのかどうか。また、文理を比べた場合、理系科目を苦手とする人のほうが目立つ気もするが、克服法ははたしてあるのか。

生物学ということは、学校の教科でいえば、理科が福岡さんの専門だ。理科の楽しさと勉強法について教えてほしい。

福岡:ではまずは、理科という教科の弁護からしてみましょうか。

日本の教育で「理科系が得意」といえば、ふつうは算数や数学ができることを指しますよね。勉強のよくできる秀才とみなされるには、算数・数学の成績がいいのは必須です。

これは日本にかぎりません。私は米国で研究していた時期も長いのですが、彼の地で中学高校の入試といえば、大量の数学と国語の問題、それに論文を課されるのが定番です。洋の東西を問わず、勉強ができる=算数・数学ができるとなっています。

ネーミングからわかる通り、理科も理科系の教科なのですが、算数・数学と比べると重要性が一段、落ちると思われている。「副教科」的な扱いとなりがちなのは不思議です。

学問研究の世界で理系の知を特徴づける理科の存在感

桜木:というと?

福岡:学問研究の世界では、数学と理科の関係は明らかに逆転するからです。世の大半のサイエンティストは理科分野のことを研究しており、数学の研究者なんてかなりの少数派。私たち科学者から見ても、数学者とはほんのひと握りの天才で、フェルマーの定理だとかポアンカレ予想など超難解な問題に挑み、そもそも理解できる人が世界に10人いるだろうかといった仕事や業績を積み重ねているようなイメージです。研究者というよりも、先端的なアーティストに近いとでもいいましょうか。

桜木:なるほどいわれてみれば、われわれがだれかのことを「文系向きか、理系向きか」と判断するときの指標は、たいてい「算数・数学が得意かどうか」ばかりだ。その見方は偏りがあって、あまり正確ではないのかもしれない。

福岡:理科系の知を特徴づけているのは理科なのですが、教育においてはかなり数学偏重となっています。そこにはある種のゆがみがあります。ということはつまり、小中学生のころに算数や数学が苦手だからといって、その人が理系に向いていないとは決していえないのですよ。

桜木:そういわれると、すこし視野が広がる気分だ。

生物学では芸術的感性がモノをいう

福岡:数学はすべての学問の基礎であり重要なものですが、研究の世界の主流はむしろ理科なのだということは、はっきり申し上げておきましょう。

そして理系分野において、私が携わる生物学は、最も大きなフィールドであることも明示しておきたい。生物学には医学も含まれますから、領域としては非常に大きいのです。

生物学を学び研究するうえでは、高度な数学的知識など必要なくて、じつは基本的な四則計算ができればたいてい事足ります。少なくとも、微分積分に通じていなければならないといったことはありません。

ですから小中学校や高校で、いま算数や数学に苦労している人も、「自分は生物学のような理系の分野に進むのは無理だ」なんて思う必要は、まったくありませんからね。

桜木:そういうものかと、少し安心するものだな。

福岡:私は現在、青山学院大学総合文化政策学部の教授職に就いていますが、文系学部の学生と話していて「この人は理科系のセンスを持っているな」と感じることも多いのです。

とくに生物系は、アーティスティックな感覚が求められます。たとえば細胞を研究するとき、細胞一つひとつは微小なので肉眼では見えず、顕微鏡を用います。ただしごく小さいとはいえ、そのまま顕微鏡で見るには厚みがありすぎる。そこで薄切りにして切片をつくります。そうした切片を観察するときには、これは細胞をどの角度で切った断面なのか、脳内でうまく像を描ける力があるとたいへん重宝します。

好きなことを学ぶ「大いなる自由」のため、受験を乗り切れ

桜木:なるほど……。

福岡:いわばCTスキャナーが頭の中に備わっているような能力が、生物学ではとても大切なのです。この力は、微分積分がスラスラできるような数学的能力というよりは、石膏デッサンがうまく描けるといった芸術的才能のほうに近い。この一点を見ても、数学ができないから理科系の学問をするには向いていないなどといえないのがよくわかります。

桜木:ならば理科系をめざすにしても、文系科目や芸術的感性を養うことに重点を置いて準備をすればいいのだろうか。そうもいかないだろうな。

福岡:そうですね。

実際に生物学者になるためには、受験で数学の点数をしっかり取って理科系の学部に進まないと、スタート地点にも立てないという現実はありますからね。受験制度という壁があるのなら、そこは少し我慢して乗り越えていただくよりほかないでしょう。行き先には、好きなことを存分に学ぶという「大いなる自由」が待っているので、まずは割り切って数学などもしっかり勉強し、ぜひ受験を突破してきてください。

桜木:やはり受験勉強はしっかりやらねばならないのだな。次回も、福岡先生に、理科のおもしろさを詳しく聞いていくぞ。

【『桜木建二が教える 大人にも子どもにも役立つ 2020年教育改革・キソ学力のひみつ』

(ライター・山内 宏泰)

※この連載の最新版は、LINE NEWS「朝日こども新聞」(月、水、金 8:30配信)で読めます。

160x宝槻泰伸さん

話を伺った人

福岡伸一さん

ふくおか・しんいち 1959年9月29日、東京都生まれ。生物学者。青山学院大学総合文化政策学部教授。京都大学大学院で学んだ後、米国・ロックフェラー大学、同・ハーバード大学で研究活動をおこなう。京都大学などで教鞭を執り、現職。おもな著書に、『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)、『動的平衡』(木楽舎)などがある。写真は©阿部雄介

『ドラゴン桜2』
作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式マガジン」(note)で連載中。

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