経営者の子育て

サイボウズ青野慶久さんが育休をとって考えた 子育てと経済の意外な関係

2019.12.16

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佐々木 正孝
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上場企業のトップにして、3度にわたって育休を取得した青野慶久さん。男性の育休取得のメリット、そして「子育ては最強の市場創造である」という持論の真意とは? 経営と子育てを両輪で進める青野さんを直撃すると、「育休もいいけど時短勤務もいいよ!」「40年間まったく変わらない学校の教室から見えるもの」など、刺激的なメッセージが次々に飛び出してきました。

話を伺った人

青野 慶久さん

サイボウズ株式会社 代表取締役社長

(あおの・よしひさ) 大阪大学工学部情報システム工学科を卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、1997年に松山市でサイボウズを設立。グループウェア「サイボウズ Office」シリーズでシェアを伸ばし、設立9年目で東証1部に上場した。社内ではワークスタイル変革を推進し、離職率の低減を達成。3児の父として3度の育児休暇を取得している。総務省、厚生労働省、経済産業省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーを歴任。

(サイボウズ株式会社 HPはこちら) 

遅々として進まない、男性の育休取得事情

――上場企業の経営者としては、先駆けて育休を取得した青野さん。初めて育休を取得した9年前に比べ、現状をどう見ていますか。

男性の育休取得率は、2018年度で6.16%※。まだまだ少ないですし、上昇しているとはいえ微増にとどまっています。びっくりするほど社会は動いていないです。「イクメン」という言葉がはやったりはしましたが、実際の取得には結びついていないのが現状でしょうね。

育休の制度そのものに問題があるとは思いません。問題は「取りにくい」と思わせてしまう風土です。トップが率先して取得するなど、どんどん発信して風土を変えていかなければ。各所で議論されている「男性の育休義務化」も考えたほうがいいのかな、とも感じています。

――青野さんは第1子のときに2週間、第2子のときは週1回の育休を半年間、そして第3子では16時終業の時短勤務を半年間実践。育休も模索されてきました。

その時々で夫婦で話し合って決めてきましたが、お互いの状況にうまくフィットしたのが時短勤務でした。送り迎えは夫が担当できるから、妻にとってはすごく助かる。夫が日中ずっと家にいる必要はないんです。17時に必ず帰ってくるのがわかっていたら買い物も頼めるし、急に熱を出したり、具合が悪くなったりする子どものケアにも対応できる。家事がたまっていたり、ちょっとリフレッシュしたかったりする妻がいたら、時短勤務なら「17時以降は任せろ」と言うことができます。

――夫の青野さんにとって、時短勤務はいかがでしたか?

短時間とはいえ会社に出るわけですから、関わっている業務が途切れることがありません。育休を取るときの引き継ぎ、そして育休明けで現場に戻ってくるときの引き継ぎというのは意外に大変ですからね。でもおかげで、会社の空気が変わりました。16時になったら、社長の僕が「じゃ、お迎えにいきます!」と帰っていくわけですから。社員の間にも「えっ、あれでいいんだ!?」という空気が広がります。

冒頭に日本全体の男性育休取得の現状を嘆きましたが、サイボウズ社内で男性の育休取得が当たり前になってきているのも、こうした空気があるからかもしれません。そして、僕のように時短勤務を選ぶ社員も少なくない。「育休=子どもが生まれたら数カ月取るもの」という固定観念にとらわれることはないでしょう。これは男女に共通して言えることですが、時短勤務をはじめ、育休の取り方はもっと多様化が進んでいいのではないでしょうか。

――サイボウズは「100人100通りの働き方」を提唱していますが、同じように、「100人100通りの育休の取り方」が考えられますね。時短勤務は導入も簡単そうですが、なぜ普及しないのでしょう?

給与制度との兼ね合いでしょう。時短勤務を選択した社員にどのような給与を設定し、昇進・昇格の評価をどう進めていくのか。これは、年功序列制度で歴史を重ねた企業にとっては難しい問題。だから、なかなか踏み切れる会社が少ないのが現実なのです。もちろん、働き方や休み方を柔軟に考え、新しい組織のあり方を模索する意欲的な企業もどんどん出てきています。今後、新しい企業で取り入れられていく期待は大いにありますね。

※平成30年度雇用均等基本調査(速報版)

サイボウズ青野慶久さん

子育てと経済は密接にリンクしている

――イベントなどで「子育ては最強の市場創造である」とも発言されていた青野さん。3度にわたった育休の取得で、経営者としてどんな気づきを得ましたか?

そうなんです。子どもを見ていて、「20年後、大人になったらサイボウズの製品のユーザーになるかもしれない……つまり、こいつは客や!」という気づきがありましたね(笑)。これはどういうことかというと、子育てと経済は実に密接にリンクしている、ということです。

「年々、採用が厳しくなっている」「市場がどんどん縮小している」と現状を嘆く経営者がいますが、僕に言わせれば、それは当たり前。あなたたちが子育てを重んじてこなかったから、子育てする社員を支援してこなかったからでしょう。その行いがぐるっと巡って、経営者であるあなたの首がしまっているんですよ、と。商売をしているなら、この現実を直視しなければなりません。

経済活動に従事しているなら、働く人たちの子育てに、もっと目を向けていきましょう。経営者のマインドの中で「子育て」と「経済」が切れているなら、両者をリンクさせるところからスタートです。もっとも、これは「経済活動のために子どもを産みなさい」という話ではないですよ。多様性が尊重される現代。結婚したくない、子どもを持ちたくないという人もいるでしょう。だけど、子育てをしている社員が一人でもいるなら、制度や仕組みを整えてほしい――これが、育休を経験した僕からのメッセージです。

――働き方改革、ワーク・ライフ・バランスの議論が活発化する中、経営者は「育児」のバックアップが求められるということでしょうか。

出産・育児を経た女性が少なからず直面するのが「マミートラック」。仕事に復帰しても主要業務に従事できないことがある、という問題です。育休明けであろうが、時短勤務であろうが、ベストを尽くして働いてほしい。男性、女性という性別にかかわらず、キャリアを断絶せずに連続して働ける組織を目指していかなければならない、と考えています。

僕は組織と人材の関係を「石垣」にたとえます。一律のブロックを積み上げるのではなく、サイズも形も違うさまざまな石、つまり一人ひとりの個性がうまく組み合わさることで強い組織ができあがります。そこで大切なのは、きめ細かいマネジメントです。作ったルールにはめこむのではなく、どんな仕事をしたいのか、どんな生き方をしたいのか、社員一人ひとりと向き合っていくことが求められるでしょう。

サイボウズ青野慶久さん

教育には、テクノロジーや新しい考えが必要

――青野さんが初めて育休を取ってから9年。お子さんの成長で新たなステージも見えてきたのではないでしょうか。

子どもが塾に通う年代になり、夫婦ですり合わせることも増えてきました。YouTubeに夢中になっている子どもを見ても、僕は何とも思いません。僕だって、子どもの頃はめちゃくちゃダラダラしていましたからね(笑)。ただ、妻はそのダラダラが許せない。習いごとや塾の学びについて話し合い、理解を深める日々です。

もっとも、小学校に足を向けたら驚きも多いですよ! 教室に入れば、同じ方向を向いて並ぶ机と椅子。決められた時間割に沿った授業。先生は黒板にチョークで板書し、紙のプリントが渡される。僕が通っていた40年前とまったく同じ風景が広がっていることに衝撃を受けましたね。この環境にはテクノロジーや新しい考えを取り入れる余地があるのではないか、とも考えましたね。

――時間に融通がきくフレックスタイムで、職場はフリーアドレス。スマホやタブレットを活用して、場所にとらわれないテレワーク……いや応なく変革が進むビジネスの現場とは大違いです。

学校の先生の働き方も改善すべきですよね。子どもが登校する朝8時には、もう学校にいて挨拶をしなくちゃいけない。でも夜も遅くまで働いてテストの採点などをしていますよね。算数の丸つけ作業なんて、人間がやらなくてもデジタル化できる部分じゃないかと思います。

仕事人間で、ソフトウェアのビジネスに集中していた僕としては、子育てをするまで社会のことをほとんど知らなかったと言ってもいい。保育や教育はもちろん、医療がどうなっているのか、まったく知らないままビジネスに励んできました。その世界が、子育てに関わることで一気に広がったんです。僕は、子育てを通して社会を知り、学ぶことができました。子育てのチャレンジからビジネスパーソンとして得るものは大きい。僕自身、サイボウズ社内にとどまらず、講演などを通して男性の育休を啓蒙する機会が増えてきました。今後もどんどん情報発信を続けていきたいですね。

――先に、男性の育休取得率が一向に伸びないのは「制度ではなく、その企業の風土に原因がある」とお聞きしました。育休や時短勤務が選択しづらい職場にいたら、どんなアクションが考えられるでしょう?

「辞めちゃえー!」「奥さんだったら夫を辞めさせちゃえー!」と言いたいですね。一流企業に籍を置いていたとしたら、それが誇りにつながることもあるかもしれない。だけど、家族の生活に犠牲が生じるようなら、それは考え直したほうがいいでしょう。多様な働き方を認める企業への転職も視野に入れ、話し合ってみてはいかがでしょうか。

そして、ビジネスパーソン、特に男性には「今育休を取っておけば、5年後に一歩先を行けるぞ」と言いたいですね。これは間違いないです。ダイバーシティーや柔軟なワークスタイルを重んじ、制度や仕組みとして取り入れる企業、経営者は確実に増えていますし、その傾向は今後ますます顕著になっていくでしょう。そこでは、育休を取得した経験が大きなアドバンテージになるはずです。

ビジネスだけじゃなく、人生を通して考えてみてほしい。子育てに参加したらパパ友やママ友との付き合いもありますし、地域コミュニティーの一員としての活動も無視できません。このつながりとコミュニティーは、人生100年時代において、かけがえのない基盤になることでしょう。大変なこともありますが……参加してみたら、きっと面白いですよ。

(撮影:小野 奈那子 編集:阿部 綾奈/ノオト)

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