「YouTube授業」を続ける理由

教育YouTuber葉一さんから保護者へのアドバイス 知的好奇心くすぐる教育とは?

2019.11.29

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藤田 佳奈美
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学校の授業、塾、家庭教師、通信教育……。従来の勉強法に今、“YouTube”という選択肢が加わりつつあります。元人気塾講師の教育YouTuber・葉一さんは、2012年から授業動画の配信を開始。YouTuberという言葉が今ほど浸透する前から、誰でも無料で勉強できる環境づくりを目指しています。子どものみならず、親世代にまで認知されつつある葉一さんが目指す、これからの教育のあり方とは。彼の学生時代の勉強法や、保護者から寄せられる相談に対するアンサーも教えてもらいました。

話を伺った人

葉一さん

教育YouTuber

(はいち)1985年3月11日、福岡県生まれ。東京学芸大学を卒業後、営業職、個別指導塾の塾講師を経て独立。2012年、YouTubeで小学3年生〜高校3年生を対象に算数・数学をメインとした授業動画を投稿開始。チャンネル登録者数は70万人を超える。思春期特有の生きづらさや悩みに対して、自身のエピソードを交えながらアドバイスするなど、メンタル面のサポート動画も話題に。2児の父。

YouTubeが所得や地域による“教育格差”の突破口に

――葉一さんがYouTuberを始めたきっかけは?

YouTuberを始める前は個別指導塾の講師として働いていました。自分は進学塾に通ったことがなかったので、そこで初めて塾の授業料の高さを知ったんです。夏期講習が加わるとさらにかさむじゃないですか。

所得格差があるのは仕方がないけれど、学びに格差があるのは違うよなぁと感じていて。それで、勉強の選択肢を増やすために、YouTubeに授業動画を投稿してみたんです。

――どうしてYouTubeに目をつけたんですか?

家庭の経済事情によって塾に通えない子も、地方在住で近くに塾がない子も、YouTubeだったら、いつでもどこでも見られると思ったからです。ニコニコ動画などもありましたが、YouTubeならアカウント登録もいらないし、無料なので子どもたちがアクセスしやすい。それで、YouTubeを選びました。気づいたらもう8年目。おかげさまで、「わかりやすい」「葉一さんの動画だけで志望校に受かった」などの声をいただくことも増えました。

――YouTuberとしても先駆け的存在だったのですね。

最近は、保護者層にも認知されてきたのですが、僕の動画が親子共通の話題にもなるみたいです。授業だけじゃなく、親の本音や子どもの生きづらさをテーマに話す動画もあるから、お互いの本音を動画で知ることができるのかなって。いつの間にか、親子の会話のツールになっているなんてこともあるみたいです。

――勉強以外の場面でも動画が活用されているのですね。ほかにもYouTube授業ならではの特徴はありますか?

YouTubeは生徒の顔が見えないから、どこでつまずくのかもわからないし、疑問に対してすぐには解決できません。でも、気になるところを何度でもくり返し見られる。反復して落とし込んでいけるんです。

――とはいえ、YouTubeには面白い動画がたくさん投稿されていて、誘惑も多いです。勉強が思うように進まないのでは?

エンタメ動画がたくさんあるのに、わざわざ僕の動画にきて自主的に勉強しているって、すごく気概を感じますよね。実際のところ、塾や通信教育を使わなくても学年トップになれる子はいて、彼らは勉強のやり方をちゃんとわかっているんです。自分にフィットするやり方を模索する中で、選択肢の一つとして授業動画を活用する。そんな主体性がある子たちだからこそ、成績も伸びるのではないでしょうか。逆に、塾に通わせているから安心と思っていても、子どもが“通わされている”と感じていて主体性がないと、伸びないこともあるんです。

親も勉強する姿勢を見せることが大事。教育YouTuber・葉一さんが思う教育のあり方

親から「勉強しなさい」と一度も言われたことがない

――学生時代、葉一さんご自身はよく勉強していましたか?

小学生のときは真面目に勉強に取り組んでいました。テストでいい点数を取れたら褒められるから、そのために勉強していたのかもしれません。

――葉一さんのご両親は勉強について、どのように指導されていたのですか?

実は「勉強しなさい」と言われたことが一度もなくて、勉強するだけじゃ褒められませんでした。ただ、テストでいい点数を取ると、「前より点数よかったね」とさらっと褒めてくれて。それがうれしくて勉強していたのを覚えています。

――いい意味で放任主義だったんですね。では、勉強しなくても何も言われなかったのですか?

何も言われなかったですね。「勉強しろって言ったら、あなたは勉強しなくなるでしょ。あまのじゃくだから」と、成人してから親に種明かしされました。

――葉一さんの性格を踏まえて、教育方針を決めていたんですね。

そうですね、うまく舵取りしていたみたいです。実は、僕の妹は知的障がい と発達障がいを持っていて、当時は今よりも偏見にさらされていたこともあり、「妹が頼れるようなしっかりしたお兄ちゃんでいなきゃ」と思っていました。だけど、そのために子どもができることって少なくて。

――子どもなりに考えた“しっかりしたお兄ちゃん像”が“勉強ができるお兄ちゃん”につながっていったのでしょうか。

それもあったと思います。習い事もスポーツもやっていなかったので、勉強を頑張るしかなかったんですよね。そんな小学校時代とは裏腹に、高校時代は2年生まで全然勉強しませんでした。

親も勉強する姿勢を見せることが大事。教育YouTuber・葉一さんが思う教育のあり方

――どうしてですか?

もともと高校卒業後に進みたかった専門学校は、通知表の内申点だけで入学できるとわかっていたからです。僕は中学のときにいじめを受けていて、学校が嫌いでした。教師のことも信頼していなかったんですが、高校に入って恩師と呼べる数学の先生と出会ったんです。僕も彼のような教師になりたいと思って、志望校を国公立大学に変えました。

だから本格的に受験勉強に取り組むのが遅くて、高校2年生の冬のマーク模試で英語が偏差値30台でした。志望校に入るためには偏差値が20も足りなかった。そこからがむしゃらに勉強しました。

具体的には、勉強ができる友人のやり方をとにかくまねする。そのなかで自分には合わないと思う部分をそぎ落として、合う部分だけ取り入れる。そうして自分らしい勉強のスタイルを確立しました。今は、「勉強法に答えなんてないんだから、自分で作っていくしかない」って子どもたちによく言います。

――勉強法は人それぞれでも、葉一さんのやり方が気になる人も多いと思います。ほかにはどのように勉強していましたか?

記憶力が悪い自覚があったので、反復回数を増やして“反復の鬼”になりました。もし1時間かけて英単語を覚えても1週間後には忘れてしまったら、その1時間が無駄になるじゃないですか。だから、覚えたことを絶対忘れないために、忘れそうになるタイミングで復習しました。

子どもたちって目の前の問題が解けると、次へ次へと進もうとするんですけど、やったことを復習しないからどんどん忘れていくんですよね。勉強を頑張っているのに成績が伸びない子は振り返りをしていないことが多いです。

知的好奇心をくすぐる教育と褒める土壌づくりが大切

――葉一さんは年長と3歳になるお子さんの父親でもあります。お子さんたちの教育はどのようにされていますか?

親として、知的好奇心だけは育ててあげたいと思っています。勉強に限らず、何かを学びたいと思う気持ちは大切だと思うので。長男が4歳のときに、彼が好きなプラレールを使って足し算を教えていたんですよ。それで答えられたら、すごく褒めてあげる。そうやって気持ちを乗せてあげると子どもの方から「もう一問やろう!」って言ってくるんです。その延長で、今はかけ算までできるようになりましたね。ゲーム感覚で「何かすると楽しい」「何かできると褒められる」という経験をさせてあげることが大事なんだと思います。

――子どもってハマったら、「もう一回お話しして」「もう一回抱っこして」と無限おねだりしてきますが、その“もう一回”を勉強に応用することが大事なんですね。

意識的に褒めることが重要ですね。子どもの年齢が上がるにつれて、子育てのなかで褒める回数が減っていくと感じるんですよね。できることが増えてそれが当たり前になってくると、できないことに目がいってしまい、叱ることが増えてしまう。

僕の場合は、特に長男に対してあたりがどんどんきつくなっちゃって。今は、褒めると叱るの比率は9:1くらいを意識しています。子どもに褒められる土壌が育っていないと、叱っても小言だと思われて伝えたいことが伝わらないので。

親も勉強する姿勢を見せることが大事。教育YouTuber・葉一さんが思う教育のあり方

親が勉強する姿勢や悩んでいる様子を子どもに見せなきゃいけない

――保護者からはどんな悩みを相談されることが多いですか?

子どもの学年が上がって勉強の内容が難しくなると、親自身では子どもに勉強を教えられなくなるという悩み相談はよく受けます。

でも、「何かやってあげようか?」というのはかえってプレッシャーになるだけ。子どもたちから助けを求められたときに、ちゃんと手を握ってあげるのが親の役目だと僕は思っています。

あとは親も一緒に勉強するのがとても有効です。リビングで資格の勉強をしたり本を読んだり、とにかく机に向かう姿勢を見せること。そうすると、子どもも自主的にドリルをやりだすんですよ。親御さんが子どもに勉強を教えるために僕の授業動画を見ることも多いようですが、できたらお子さんと一緒に見て勉強するのがいいと思います。

自分が子どものころ、親はなんでも知っていると思っていたし、ましてや親が何かに悩んだり泣いたりするなんて思わなかった。でも、それを克服しようと頑張っている姿を子どもに見せるのはとても意義があるんですよね。

――そのときの記憶がきっと親になった今もあって、プレッシャーを勝手に背負っている。そういうプライドを捨てて「一緒に勉強をやろうよ」っていうのが大事なんですね。

親は完璧であろうとしすぎないことが大事。じゃないと、子どもにもそのプレッシャーが伝わって潰れてしまうと思います。親が弱音を吐くと子ども側も本心を見せてくれるので、お互いに余裕が生まれるんです。悩んでいる姿をプラスに還元するのが大事だなって思っています。そして、「一緒に解決していこうね」って二人三脚できるといいですよね。

――葉一さんが勉強以外にもご自身のつらい体験や弱音を動画で伝えているのは、そういう意図があるんですか?

それもありますね。「僕も悩んでいるけど、足を止めずに頑張る。だから、みんなも踏ん張ろう」っていうメッセージを伝えたいです。

――勉強だけじゃなくて、メンタル面からのサポートもあるから葉一さんは支持されているんですね。最後に、今後の展望を教えてください。

いろいろありますが、教育現場の課題や親子間の問題って内部から変えるのはとても難しい。YouTuberという第三者的な立場の異端児だからこそ、外部からのアプローチで教育現場を変えるきっかけが作れるのではないかな、と思っています。

そのために、子どもだけでなく保護者や先生たちにも知ってもらえるよう、これからも動画を投稿していきたいです。

(撮影:森カズシゲ 編集:阿部綾奈/ノオト)

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