習い事の選び方

本当に必要な「習い事」の選び方 おおたとしまささんに聞く

2019.11.25

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きたざわ あいこ
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IT技術の普及やグローバル化でどんどん未来が不確定さを増す中、最近よく聞くようになった「生きる力」という言葉。それは学力だけではない、未来を切り開く多彩な能力のことです。 そんな「生きる力」をつけさせるために注目されているのが、習い事です。多様化する習い事の中から、親は子どものためにどんな習い事を選んであげればいいのでしょうか? 著書に「習い事狂騒曲 正解のない時代の『習活』の心得」(ポプラ新書)を持つ、育児・教育ジャーナリストのおおたとしまささんに、習い事の選び方について聞きました。

話を伺った人

おおたとしまさ

育児・教育ジャーナリスト

1973年東京都生まれ。リクルートから独立後、独自の取材による教育関連の記事を幅広いメディアに寄稿、講演活動も行う。中高の教員免許を持ち、私立小学校での教員経験もある。著書は50冊以上。
おおたとしまさオフィシャルサイト

生きる力を養う。「習い事」 選びの本質とは?

習い事で身につけるべきものは「スキル」ではない

「習い事は、どんなスキルを得るかということよりも、いかに非認知能力を身につけられるかが大切です。それが学校の勉強に対して習い事を行う意味と言えます」

そう話すのは、育児・教育ジャーナリストとして多くの著作を持つおおたとしまささん。非認知能力とは、粘り強く頑張る力やコミュニケーション能力など、簡単には数値化できない内面の力のことを指します。

親としては、グローバル社会で活躍するために英語を習得させたい、プログラミングができるようになってほしい、音楽の才能を開花させてほしいなど、習い事による子どものスキル発達を期待してしまうかもしれません。しかし「この能力をつけさせたいから」「どこに才能があるかわからないから」と親が一方的に習い事を選択することは間違いだ、とおおたさんは言います。

「子どもの能力開発のためにいろいろ挑戦させたいと思うかもしれませんが、スポーツの中の球技だけを挙げても、ものすごく種類がありますよね。それをすべて試していたらきりがありません。本当に能力があって、それで将来食べていけるくらい才能がある子なら、親がやらせなくても勝手に始めるでしょう。実際に習うのは子どもですから、子どもが興味を持ったことを習わせることが非認知能力を養うためには一番大切です」

子どもが非認知能力を養う上で重要だとおおたさんが提唱するサイクルは、以下の四つです。

1. 夢中になる
2. 何かを達成する
3. 壁にぶつかる(挫折する)
4. 克服する

最初の「夢中になる」がなければ、このサイクルは回り始めません。興味がなくても習い事をすればある程度のスキルは身につくかもしれませんが、得られるものはそれだけ。「習い事の効果」が十分に得られたとは言えないでしょう。

しかし、親自身が子ども時代に習っていたことから、その効果やスキルの重要性を認識しているがために、子どもにも習わせたいと思う場合もあるのではないでしょうか。ただ、それを理由に習わせるのはいったん立ち止まって考えてほしい、とおおたさんは強調しました。

「自分がやってよかった習い事だから子どもにも、というのは一見実績に基づいた判断のように思えますが、本来、子どもと親は違う人間です。自分にとってよかったからと言って、子どもも同じように感じるかは分かりません。子どもと自分を同一視することはエスカレートしていけば教育虐待にもつながりかねないため、子どもと親は違う存在なのだという考えのもとで、子どもの興味や選択を尊重してあげてほしいです」

おおたとしまさ

子どもの将来を決めるのは「ボーッとする時間」

子どもの興味による選択が、習い事で得られる非認知能力の向上にとって重要であることは分かりました。しかし、興味のおもむくままに子どもにたくさんの習い事をさせることは正解なのでしょうか?

「週5で習い事をしているなんて子もいますが、これではどの習い事も中途半端になってしまうでしょう。ある程度、数をしぼらないとそれぞれのパフォーマンスが下がり、結局は挫折の段階でやめてしまい、何も得られないという結果になることもあります」

習い事の数を増やすよりも、数は多くなくてもしっかりと打ち込めるものを選択することが大事。さらに言えば、習い事で得られる非認知能力よりも子どもの将来にとって大切なのは、「ボーッとする時間」なのだとか。

「やらせればやらせるだけスキルは身につくでしょう。でも一方で、見えない部分で失っているものがあります。毎日何かしらやるべきことに追われているというのは、与えられるものに受け身になっているだけの状態。そうなると、自分で何かをやりたいという意欲が損なわれてしまいます。その意欲を育むために必要なのがボーッとする時間なのです」

何もすることがないというときにテレビを見たり、本を読んだり、折り紙をしたりして、子どもは「何をしているときが楽しいのか、わくわくするのか」に気づいていくのだそう。そういった経験の積み重ねが、自分の人生の選択につながっていく、とおおたさんは説明します。

「習い事はあくまでもプラスアルファとして考えることです。そう考えると、ボーッとする時間のほかに、家族と過ごす時間を確保することも大切ですね。習い事の送り迎えで親が毎日駆けずり回っていて親子でゆっくり話す時間もない。そんな生活が子どもにとっていい環境かと言われると、そうではないのではないでしょうか」

まずは親子の時間と子どもの自由な時間を確保する。その上で、空いた時間を習い事に充てるという順番で考えていけば、必然的に習い事の数は絞られてきます。そして、新しい習い事を始めるならば、今やっている習い事をひとつやめるといったようにして、バランスを取ることが大切です。

習い事は4象限を埋めるように選ぶと効率的

前提となる「子どもの興味と余剰時間で行う」という点を満たした上で、身につける非認知能力を増やすための習い事選びの方法があるのかは気になるところ。水泳とピアノは常に習い事の人気ランキングでも上位にきますが、その魅力をおおたさんは以下のように分析します。

■水泳
水泳は何事にも生かせるような、ベースとなる体力が身につく。体への負荷も少ないので、幼児期にやるには理にかなっているのが人気の理由。

■ピアノ
レッスンのために家でも練習する必要があるため、退屈でも続ける習慣がつく点が勉強と共通している。
音符を読む、覚える、アウトプットする。これらを繰り返していくので脳のワーキングメモリを鍛える効果があるとも言われている。

それぞれに大きな魅力がありますが、両方とも基礎的な体力や精神力を身につけられる点が人気の理由と言えるでしょう。また、「必須というわけではないが」と前置きした上で、バランスを取るために4象限で分けて習い事を選ぶという方法もある、とおおたさんは言います。

生きる力を養う。「習い事」 選びの本質とは?

集団か個人か、体育系か文化系かで分け、できるだけかぶらないように習い事を選択することでバランスの良い経験ができるのだとか。

例えば、サッカーに最初に興味を持った子は「集団×体育系」を満たしているので、もうひとつ習い事をするならば、「個人×文化系」を満たせる習い事が理想です。

「ただし、子どもが友だちと遊べる屋外環境などが充実しているような場合は、チームワークの点は遊びで満たしているので、習い事は個人的なものだけでも十分だと言えるでしょう。子ども同士の自然な遊びに勝る、コミュニケーション能力の向上とクリエーティビティーの向上に役立つものはありません」(おおたさん)

おおたとしまさ

始めるときに「やめどき」も決めておく

子どもが成長するにしたがって、興味の対象が変わってくることも当然考えられます。しかし、本当に興味があって新しいことをやりたいのか、それとも挫折や飽きによって一時的に逃避しているだけなのかを見極めねばなりません。

おおたさんは、大前提として習い事をやめる際は「ちゃんとやらないならやめなさい」ではなく「よく頑張ったね」と思える形で終えることが大切だと言います。そのために必要なのが、習い事を始めるときにやめどきを決めておくこと。

「始めるときに、少なくとも半年はやろうとか、○級取るまでは続けようとか、区切りを設けておくのです。新しい習い事をしたい、途中でやめたいと言っても、最初の目標が達成できるところまでは続けさせてみる。すると、新しいことをやりたいわけではなく単に今の習い事に挫折しているだけなら、目標達成したらまたやる気が戻るかもしれない。やっぱり新しいほうをやりたいとなったらそのタイミングで変えればいいのです」

逆に習い事をやめるタイミングとして最も良くないのが「勉強をしないからやめさせる」というものだとおおたさん。親が思うように習い事と勉強のバランスをコントロールすることは根本的には不可能だと言います。

「習い事をやめさせたら、その時間を勉強に充てるようになるなんてうまい話はありません」


最後に、おおたさんは習い事に限らず、親は子どもに手や口を出しすぎず「よく見る」ことが大事だと話しました。

「子どもが目を輝かせたときに、『すごいね』『いいね』と言ってあげるだけで、子どもは自分が感じた感情や意欲に自信が持てるものです。親の熱心さは、子どもの興味・関心を邪魔しないで尊重することに使ってほしいですね」

(撮影:辰根 東醐 編集:阿部 綾奈/ノオト)

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