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医師国家試験合格率No.1 の自治医大 背景に徹底したスパルタ教育

2019.10.30

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大室 みどり
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医師国家試験の合格率で7年連続トップに輝くのが自治医科大(栃木県下野市)だ。2013年以降、合格率は常に99%以上。へき地での医療を担うべく全国から集まった学生たちを鍛え上げる、同大の教育に迫った。(撮影/朝日新聞出版写真部・加藤夏子)

ほぼ全員が一発合格

自治医科大は山間部や離島、過疎地などの医療を担う医師を確保するため、全国47都道府県が共同で設立した。入学金や学費の全額2300万円が貸与され、卒業後9年間、へき地などの指定医療機関で勤務すると返還を免除される。

「都道府県の支援で学生生活を送るからには留年せずストレートで合格するのが当然」と、同大医学教育センター長で内科医の岡崎仁昭教授は話す。同大は国家試験合格率のみならず、6年間の修業年限内で卒業する“ストレート卒業率”も約95%と高い。ほぼ全員が留年することなく、国家試験に一発合格する。

医学教育センター長の岡崎仁昭教授。手にしているのは、870ページに上るオリジナルの国家試験対策本
医学教育センター長の岡崎仁昭教授。手にしているのは、870ページに上るオリジナルの国家試験対策本

背景には徹底したスパルタ教育がある。国家試験対策はもちろん、実際の臨床で役立つノウハウを教えるため、医学教育センターの教員は全員が臨床医。「速習カリキュラム」を導入し、3年生までに基礎医学と臨床医学の学習を終え、4年生から臨床実習に入る。臨床実習期間は6年生の夏まで80週以上。研修医さながらに付属病院で患者に接し、採血などの手技も実践する。一般に医学部で座学を終えるのは早くても4年生の夏で、80週以上の臨床実習を行う大学はまれだ。臨床実習終了後は国家試験に向け知識を総括する。

3年生から6年生までの成績不振者には週1回、通常授業が終わった午後6時以降に夜間補講が行われる。とくに6年生の下位約40人は通称「岡崎ジャパン」と呼ばれ、岡崎教授自ら年間200時間以上かけて猛特訓。症例を提示し、学生を指名して知識や対応をスムーズに口頭で回答できるまで何度も問う。

「へき地に最新の設備はない。検査に頼らずとも正しく診断できるように、医療面接や身体所見を大事にするよう口酸っぱく教育しています。患者さんの訴えをしっかりと聞く臨床医として地域で活躍してほしい」と岡崎教授。自身も自治医科大の卒業生で、地元・宮城県の診療所で勤務した経験をもつからこそ、後進の育成に情熱を注ぐ。

6年生を対象とした夜間補講。「医師には口に出して説明できる能力も大切。知識が定着するまで何度でも答えさせます」と岡崎教授
6年生を対象とした夜間補講。「医師には口に出して説明できる能力も大切。知識が定着するまで何度でも答えさせます」と岡崎教授

全寮制で学び合う

全寮制も自治医科大の大きな特徴だ。同大の医学部生は、病気の罹患や結婚など特別な事情がなければ、全員が6年間の学生生活を寮で過ごす。学生たちはキャンパス内で生活することで勉学に集中できるだけでなく、共同生活を通じて将来医師としてチーム医療を牽引するための協調性や自主性を身につけられる。

寮では、学生全員に個室が用意されている。広さは19.5㎡で、机やベッド、エアコン、インターネット端子、テレビ端子のほかミニキッチンやトイレも完備。快適なプライベート空間が確保されている。一方、学生同士のコミュニケーションを図るため、大浴場やラウンジといった共用スペースも充実。学年や出身都道府県が同じ学生同士が集まって、互いに勉強や生活の悩みを相談できるのはもちろん、学年を超えて先輩・後輩がつながる場でもある。

「友達と同じ建物で暮らせるので安心感があります。体調を崩したら友達が差し入れを持ってきてくれるし、試験前はお風呂で『勉強どう?』と声をかけ合う。ふつうの大学よりも助け合えるし、みんなで学び合えると思います」と、寮委員長で4年生の小林茉莉子さんは語る。

適度にリラックスすることもできるという。

「寮のルールはゴミの分別やお風呂の時間くらいで、厳しいものはありません。外出や外泊の制限もないし、大半の学生が車も持っています。アルバイトもできますし、体育会系をはじめクラブ活動もさかん。意外と自由ですよ」(小林さん)

学生寮のラウンジで後輩たちと語り合う4年生の小林茉莉子さん(右)
学生寮のラウンジで後輩たちと語り合う4年生の小林茉莉子さん(右)

地域を支える医師をめざす

自治医科大医学部には、全国47都道府県から選抜された学生が集まる。6年生の石田みなみさんは、愛知県の出身。授業で聞いた、同大の卒業生で東日本大震災の際に宮城県南三陸町の公立志津川病院で勤務していた菅野武医師の話が忘れられないと話す。

「菅野先生は患者さんを屋上に避難させて津波から守り、震災3日後に救助されるまで医療行為を続けられた。どんな状況にあっても冷静に対応できる先輩がいることが誇らしいです。自分もそうなれるかなと期待と不安がありますが、地域で求められることすべてに応えられる医師になりたい」(石田さん)

北海道出身で6年生の竹内健貴さんは、他大学の法学部を卒業後、1年間の浪人生活を経て自治医科大に入学した。

「卒業後9年間の義務年限を終えたら、医療行政に携わりたい。自治医科大の精神にもとづき、医療アクセスに乏しい地域の声を生かした医療の仕組みづくりをめざしたいです」(竹内さん)

厳しい指導を受けた優秀な医師たちが地域医療を支えていく。

愛知県出身の石田みなみさんと、北海道出身の竹内健貴さん
愛知県出身の石田みなみさんと、北海道出身の竹内健貴さん

メモ

自治医科大学 1970年、当時の自治大臣が「医学高等専門学校設立構想」を表明。72年、全国の都道府県の共同により自治医科大学を設立。キャンパス所在地は栃木県下野市。学部学生数1170人(2019年5月1日現在)。学部は医学部、看護学部の2学部。医学部の入学者は学力試験や面接で出身都道府県ごとに2~3人ずつ選抜される。

自治医科大・医師国家試験合格率OL

<コラム> 医師は国家試験に受からなければ仕事ができない。そのため合格率は100%が理想だが、どの大学でも合格できない学生はいる。こうしたなか、自治医科大は医師国家試験合格率トップを続けていて、不合格者は毎年1人か2人。他大学医学部の多くは年によって合格率が大きく揺らぐなか、その安定ぶりは突出している。卒業後、出身都道府県が指定する病院への勤務が9年間義務づけられることもあって、医療に対する熱意が強いからだろう。

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