ハイスクールラプソディー

経沢香保子さん 就職でも起業でも「桜蔭」に助けられた

2019.08.29

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中村 千晶
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26歳で起業し、2012年には当時女性最年少で東証マザーズ上場を果たした経沢香保子さん。現在はベビーシッター・家事代行のマッチングサービスを行う「キッズライン」の社長として活躍中です。自分らしい生き方を模索しながら、社会を変えていく。その原点は高校時代の体験にありました。

話を伺った人

経沢香保子さん

起業家

(つねざわ・かほこ)1973年、千葉県生まれ。桜蔭高等学校、慶応大卒業。リクルートや楽天を経て26歳で独立後、市場調査会社「トレンダーズ」を設立。39歳で東証マザーズに上場。現在はスマホでベビーシッターを呼べるサービスを提供する「キッズライン」社長。

文化祭での出店が、大きな成功体験に

――高校時代、どのような学生生活を送っていましたか?

 はっきり言って、落ちこぼれでした(笑)。私の通っていた桜蔭高校は1学年約250人のうち70人近くが東京大に行くような進学校でした。でも学内は全然「勉強しなさい!」という雰囲気ではなく、テストの順位も発表されません。なので入学したあとは「6年間ここに通っていたら、どこかの大学には入れるだろう」とのんきに構えていました。高3で指定校推薦を志願したときに、先生に「あなたは人柄はいいけれど、成績が悪いから推薦できない」とはっきり言われて愕然としました(笑)。でも勉強ができないことにコンプレックスはありませんでした。桜蔭は個性を認めてくれる学校だったんです。自分でも体育や美術、家庭科などクリエイティブな分野に向いているなと思っていました。

 ――印象深い思い出は?

 高校2年のときに、文化祭でお茶漬け屋さんを出店したんです。それまでは毎年同じうどん屋さんと決まっていましたが、私は新しいことをしてみたくて、炊きたてのごはんを業者から大量に仕入れて、市販のお茶漬けのもとに野沢菜漬け、もしくは鮭フレークをのせて提供しました。全員、私が作ったおそろいのエプロンをつけて給仕をして、店は大繁盛。大きな成功体験になりました。

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高校時代の経沢さん(写真:本人提供)

中学受験で大きかった母のサポート

――そもそも桜蔭は難関校として知られています。中学受験は大変だったのでは?

 大変でした。あのころは本当に目が開いている間は勉強していましたね。動機は地元・千葉県から離れて東京の学校に通いたかったから。父に「私立に行くなら桜蔭以外は許さない」と言われたので小4から必死で勉強しました。

 受験のときは母のサポートがなにより大きかったです。塾の宿題を完全にサポートしてくれたんです。私が電車での移動中に覚えられるよう、漢字の意味を調べておいてくれたり、算数でわからない問題にマルをつけておくと、私が学校に行っている間に母が代わりに解いて、帰宅した私に説明してくれたりしました。母がいなければ成し遂げられませんでしたね。

――お母さまの協力が大きかったのですね。

 母は専業主婦でしたが、常に「これからは女性も働く時代になるよ」と言っていました。だから私も小さいときから「育児と仕事を両立するにはどうしたらいいんだろう」と考えていたんです。同時に、父からもいろんなことを教わりました。父は「経済的自立をしないと、自由な発言権は本当はないんだよ」と言っていました。それがいまの自分につながっていると思います。

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撮影/片山菜緒子(朝日新聞出版写真部)

――大学時代はアルバイトを一生懸命にされたとか。

 私はその時々で自分を最大限に評価してもらう場所を見つけることが得意だと自負しています。大学時代は「算数のできるお姉さん」として、家庭教師のアルバイトをたくさんしました。算数が苦手な女の子は多いのですが、家に来るのが男性の先生だとちょっとやりにくい。だから女性ということが強みになったんです。効率よく教えながら結果を出すオペレーションを生み出し、数件の家庭を掛け持ちしていました。これも商売の原体験、ですね。

自分の強みを生かして起業

――起業を考えたのはいつごろからですか?

 最初はまったく考えていませんでした。大学卒業後は普通に就職して「スーパーサラリーマンになろう!」と思っていました。超氷河期の就活だったので、「営業職」で応募する作戦を立てました。営業職を希望する女性は少ないので印象に残るし、選考に残りやすいと考えました。そこでリクルートに入社して、楽天に転職。そのころから女性向けのマーケティング調査を頼まれるようになり、そこに自分の強みがあるな、と考えました。そして26歳のとき、自宅で女性向けのマーケティングを展開する会社を起業しました。

 実は就職時も起業時も、「桜蔭出身」という肩書に最も助けられたと感じています。先輩方が優秀で各分野で活躍されていることが大きかったです。個人的には女子校という環境もよかったと思います。女子校は女子だけで社会が完結しているので、力仕事でも何でも自分でやらなきゃいけない。その前提で社会に出ると「あれ?意外と男性が助けてくれる? 親切だなあ」と感謝もできるんですよね(笑)。

――戦略的な思考が素晴らしいですね。

 私は子ども時代から常に競争環境にいて、生き伸びることに必死だったんです。家庭では2歳上の姉がいたので、どうやったら父に認められるか必死でした。中高時代は勉強ができないなかで、どうやって自分のキャラを立てられるか?と考えていました。常に「私はこれで大丈夫なのか?」という焦燥感があり、その焦りを努力でごまかしていた気もします。持って生まれた性格なのだと思いますが、いま、マイペースで心の優しい自分の娘を見ていると「すてきだなあ」って思います(笑)。

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撮影/片山菜緒子(朝日新聞出版写真部)

――2014年にはインターネットを使ったベビーシッターのマッチングサービス「キッズライン」をスタートされました。

 自分が子どもを持ちながら働くことに苦労した経験がもとなんです。2004年に出産した第一子は先天性の障がいを持っていました。出産前から保育園に預けられないことはわかっていたので、ベビーシッターさんを派遣してくれる会社を探したのですが、月に何十万円もかかってしまう。しかもシッターさんの時給は1000円くらいで、仲介する会社は時給3000円以上になる。シッターの確保や管理にコストがかかることや利用者が富裕層なためどうしても高額になってしまうのだと思うます。大変助けられましたが、それでは一般の人は利用できません。そこでネットでシッターさんと利用者を直接つなげたら、利用者も助かり、シッターさんも稼げて、社会が変わるんじゃないか、と考えたんです。約10年の構想で実現しました。

 最初はたくさんの人に「日本にベビーシッターは広まらないよ」と言われたんです。確かにマーケットはなかった。でも、例えばアフリカに降り立ったとき、誰も靴を履いていないからマーケットがないと思うか、あるいは「全員に靴を売れる商機だ!」と思うのかの違いだと本で読んだことがありました。なにより私自身が困っていたので、やるしかなかった。いまでは自治体や政治家の方が視察に来るほどになりました。何もなかった場所にさざ波を起こすことができてきたかな、と感じています。

桜蔭中学校・高等学校

東京都文京区にある私立女子中学校・高等学校。高校からの入学者を募集していない完全中高一貫校で、東京大合格実績は全国の女子校でトップ。2019年の卒業生は227人。現浪合わせ、東京大に66人、慶応大に77人、早稲田大に142人が合格している。医学部など理系学部への合格者が多いのも特徴。卒業生にタレントの菊川怜さんらがいる。

【所在地】東京都文京区本郷1-5-25

【URL】http://www.oin.ed.jp/

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