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Jリーグ選手の出身大学No.1 流通経済大サッカー部の指導法

2019.08.28

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西島 博之
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大学が特徴を打ち出していくための方法はさまざまだ。約20年前、流通経済大(茨城県龍ケ崎市)が出した結論は、サッカー部を含めた七つの運動部を重点的に強化することだった。多くのプロ選手が輩出する背景には、恵まれた練習環境、そして、部員自身に考えさせる指導法がある。(撮影/朝日新聞出版写真部・小山幸佑)

人としての成長を促す

関東大学リーグ1部優勝、総理大臣杯全日本大学サッカートーナメント優勝、全日本大学サッカー選手権大会優勝――。流通経済大は大学サッカーの強豪だ。サッカー部創部は1965年にさかのぼるが、はじめは監督もおらず、部員が同好会的に運営していた。

 転機は1998年。大学が、サッカー、野球、ラグビーなど七つの運動部を「スポーツ重点部」に指定し、強化に乗り出した。このときサッカー部に招請されたのが、現在も監督を務める中野雄二さん(社会学部教授)だ。茨城県立古河一高の選手として2度の全国制覇を経験し、日本フットボールリーグ(JFL)時代の水戸ホーリーホックの初代監督などを務めた。

 「将来の少子化を見越し、大学が生き残るために特徴を出す施策が、スポーツ重点部の指定でした」(中野監督)

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「スタイルがないのが、流通経済大サッカーのスタイル」と話す中野雄二監督

 部員全員が入れる寮(4施設)やサッカー専用グラウンド(3面)などの練習環境を整備。部は中野監督と10人のコーチによる指導で急速に力をつけ、2006年、最初のビッグタイトルである関東大学リーグ1部初優勝を飾った。20年間で国内外のプロ選手90人以上が誕生。「大学ランキング2020」(朝日新聞出版)でも、同大出身のJリーガーは全国の大学で最多を誇る。

 200人を超える現役部員の多くはプロ志望だ。しかし、実際にJリーガーになれるのは毎年12人に過ぎない。だからこそ中野監督は、「部員が人としていかに成長できるかを考え、社会で通用する『財産』を持てるようにする」ことを目指す

そのために重要視するのが判断力だ。試合中もメンバーを頻繁に入れ替え、「状況に応じて何をすべきか」を部員に考えさせる。寮生活でも、ルールで縛るのではなく、部員自ら結論を導き出し、行動に移すのを見守る。

 「それが、人としての成長を促し、サッカー選手としての素質も開花させていくのです」

全寮制がサッカー部を変えた

流通経済大サッカー部の大きな特徴の一つが、全国でも珍しいといわれる全寮制だ。2000年、最初の寮が完成したことが「サッカー部が大きく変わるきっかけになった」と中野監督は振り返る。前述したように、中野監督が重視するのは部員の判断力だ。攻撃と防御がめまぐるしく入れ替わるサッカーでは、ピッチに立つ選手の瞬時の判断が試合を左右する。その判断力は練習だけで身につくものではない。練習以上に大事なのが、「ピッチを離れたところでの、ふだんの生活態度」と中野監督は強調する。

 「部員が自宅などから通う場合、2時間の練習が終わればみんなバラバラになってしまいます。全寮制だと、部員同士がいつも向き合える環境にあります」

 寮は41部屋。価値観や考え方の違う部員が集団生活をすることで、さまざまな問題を解決していくための考える力、判断する力が自然に備わってくる

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人工芝のサッカー専用グラウンド(RKUフットボールフィールド)で練習する部員。人工芝の下にはショックを吸収する素材が敷かれている

 寮で朝夕の食事を用意するのは中野監督の妻だ。中野監督も毎朝5時には調理室に立ち、大量の米をとぐ。いまは寮の近くに自宅を建てて通っているが、最初に寮ができた00年から9年間は夫婦で寮に住み込んでいた。

 部員の多くはプロをめざしているが、現実にはその夢に届くのは一握りだ。中野監督は「プロになれなくても、就職して、クラブに入ればプレーできるではないか」と方向転換を促す。それも、指導者としての役割と考えているのだ。

 そうしたアドバイスをするためにも、寮での顔色や食事の量をよく観察し、部員の心境の変化に気づく必要がある。

 「『寮の面倒もみるのは大変ですね』とよく言われます。でも、毎日、いろいろなことが起きるから、私自身は楽しくて仕方がないんです」

 中野監督はそう笑う。

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部員の移動用のバス。はめ込み式の窓などグレードの高い車種をリースしている

ボランティア活動などで地域とつながる

2015年9月、関東地方と東北地方を襲った豪雨で、茨城県を流れる鬼怒川の堤防が決壊した。流通経済大サッカー部では、翌日に試合が予定されていたにもかかわらず、部員の多くがボランティアとして駆けつけ、被災した家屋の掃除などにあたった。こうしたボランティア活動に力を入れるのは、「サッカー選手である前に、人としてどうあるべきかを考えてほしいから」(中野監督)。

結果を残しても「自分が努力した結果」とうぬぼれるのではなく、親、友人、指導者、自分を取り巻くさまざまな人たちの協力があってこそ、いまの自分がある――。中野監督は、専用グラウンドをつくるのに、どれだけのお金がかかったか、具体的な金額を示しながら、周囲の人々の存在に思いをはせるよう部員を指導している。毎週火曜日には部員全員が寮周辺のごみを拾う。50㏄のバイクで寮から大学やグラウンドに通う部員が多いが、夜、寮の近くに来るとバイクのエンジンを切って押すようにしている。こうした部員の努力は地域の共感を呼び、2008年、流通経済大サッカー部を応援する市民団体「まちの応援団」が結成された。

 「高校サッカーやJリーグに比べ、大学サッカーの注目度はまだ低い。流通経済大の試合を見に行きたい。そう思ってくれる人を一人でも増やしたい」 

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2009年に完成したスポーツ健康センターにあるトレーニングルーム。サッカー部員の約半数が所属するスポーツ健康科学部の学生などが利用する

メモ

流通経済大学 日本通運が中心になって設立した中堅幹部養成機関を起源に、学校法人日通学園が1965年に創設。「流通経済一般に関する研究と教育を振興して、わが国経済の飛躍的発展を図るとともに、深く人文科学を攻究し、教養ゆたかな、視野の広い指導的人材を育成」することなどを建学の理念とする。本部所在地は茨城県龍ケ崎市。学部学生数は5511人(201951日現在)。5学部9学科5大学院研究科を擁する。

流通経済大グラフさしかえ

<コラム> サッカー、ラグビー、バスケットボール、野球などのスポーツで、大学強豪チーム出身の選手が世界で活躍している。サッカーのアジアカップ2019に招集された日本代表のJリーガーのうち、大学出身者は室屋成(明治大)、佐々木翔(神奈川大)、守田英正(流通経済大)など。

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