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全国の学長注目度No.1 金沢工業大学の教育力

2019.05.29

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西島 博之
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大学の学長や総長は、教育、研究、経営など、優れた取り組みをしている大学に強い関心を持っている。そのなかで「教育面で注目する大学」として全国の学長から名前が挙がるのが金沢工業大学(石川県野々市市)だ。毎年多数の大学関係者が見学に訪れる。(撮影/朝日新聞出版写真部・小山幸佑)

アイデアを具体的な形に

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2016年に学長に就任した大澤敏氏。世代・分野・文化を超えた「共創教育」を推進する

365日24時間利用可能な自習室、3Dプリンターや工作機械を学生が自由に使ってものづくりに取り組める「夢考房(ゆめこうぼう)」。金沢工業大学は「学生が主役」をテーマに、長年、教育面での改革を進めてきた。「大学ランキング」(朝日新聞出版)の「学長からの評価ランキング」では、教育分野で注目する大学として、2004年以来ほぼ一貫して全国トップに選ばれている。大澤敏学長は語る。

「本学の教育改革にブレがないからだと考えています」
2000年代前半に注目されたのが、学生への面倒見のよさだ。個別指導教員が常駐して学生の学習をサポートする仕組みや、学生一人ひとりが学習の達成度や行動履歴を記録して修学アドバイザー(担任)とやりとりする「KITポートフォリオシステム」など、きめ細かな学生指導が他大学の手本となった。

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「夢考房」では、授業で学んだ知識をソーラーカーなどのものづくりを通して実践する

いまでは多くの大学が導入している、現実の問題を解決する手法を学ぶPBL(課題解決型学習)も、1995年にいち早く採り入れていた。「大学だけでなく社会でも主役になれる人材になってほしい」と、大澤学長は話す。

現在はさらに一歩進んで、社会実装型の「プロジェクトデザイン教育」をカリキュラムの中心に据える。座学ではなく、企業などで働く技術者と同じように、学生がチームを組んで課題を発見し、議論を経て解決策を見いだす。そして、そのアイデアを、前述した「夢考房」などで、実際の社会で使える形にするのが最大の特徴だ。

企業で働く社会人などが「共学者」として授業に参画し、社会人の立場から意見を述べたりする仕組みを採り入れるなど、社会や地域などとともに教育をつくる「共創」を進める。「学生が主役」。常に新しい試みを導入する改革の姿勢が、評価につながっている。

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「夢考房」の工作機械を使って学生がつくったオリジナルの部品

学部・学科を超えて学び合う

金沢工業大学では、「社会人共学者」以外にも、さまざまな「共創教育」が進められている。
「社会の課題を発見、解決し、その成果を社会に実装していくには、自らの専門知識だけでなく、学部・学科などを超えて学び合うことが重要だからです」(大澤敏学長)

地元企業との産学連携で研究を進めている「イチゴの圃場(ほじょう)管理システム」を例にとろう。圃場の省力化を図るのを目的としたこの研究では、温度や湿度を管理する各種のセンサーを開発する電気電子系の技術、AI(人工知能)を使ってイチゴの不用な実や花を間引くロボットを開発する情報工学系、ロボティクス系の技術など、学部・学科を横断する知識や技術が必要になってくる。

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学部・学科、年次に関係なく、AI(人工知能)などの新技術を学べる「Challenge Lab(チャレンジラボ)」

こうした取り組みを加速させるべく、2017年度には、学部・学科や年次を超え、より実社会での技術開発に近い取り組みができる研究拠点「Challenge Lab(チャレンジラボ)」を開設した。ここには企業で働く技術者なども参画。AIやIoT(モノのインターネット)など、最新技術を全学部の学生が学ぶことができる。「プロジェクトデザイン教育」では18年度から、学科単位でチームを組んで取り組む従来の方式から、学科を横断する形でチームを編成するスタイルに変更するなど、専門分野に他分野の知識を加えた、複合的な学びができるようにしている。

さらには、AIやICT(情報通信技術)など情報技術教育にも力を入れる。20年度入学生から、AIの概念や仕組みなどを学ぶ「AI基礎」と、基本的なプログラミングなどの手法を学ぶ「ICT基礎」が全学必修科目となる。時代を先取りする教育に力を入れるのが、金沢工業大の大きな特徴だ。

「高い研究力」でも全国の学長から注目される

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チェアスキーのシミュレーターを操作する樋田嵩斗さん

「大学ランキング」誌の「学長からの評価ランキング」では、教育面だけでなく、研究面で注目する大学としても、金沢工業大学は全国の大学で12位(2018年)に名前が挙がる。社会実装型の教育が、高い研究力へとつながっているようだ。
 たとえば、18年度には、工学部のロボティクス学科と機械工学科の学生4人が卒業研究として、日本初のVR(バーチャル・リアリティー)型のチェアスキー・シミュレーターを開発した。チェアスキーとは、座席にスキー板を固定した装置を使って滑るスポーツ。足や脊椎(せきつい)の障害により、立ってスキーをするのが難しい人向けに開発され、現在、冬季パラリンピックの正式競技にも採用されている。

VRの開発を担当した樋田嵩斗(ひだ・しゅうと)さん(大学院工学研究科機械工学専攻1年)が開発の経緯をこう話す。
「チェアスキーに制約を設けているスキー場も多い。誰でもチェアスキーを楽しめるシミュレーターを開発することで、チェアスキーの認知度が高まればいいと考えました」

ヘッドマウント・ディスプレーを装着して体を傾ければ、画像上に表れる斜面と連動してスキーの台座が動くため、実際に斜面を滑っているような臨場感のある体験ができる。研究の指導教員を務めたロボティクス学科・鈴木亮一教授はこう話す。
「チェアスキーを楽しむ人が何を求めているのか、実際の現場をよく見て、開発するよう学生にアドバイスしました」

樋田さんたちはチェアスキーの体験教室に行き、現場の声をくみ上げた。「1年でここまでの装置ができるとは思わなかった」と鈴木教授。「夢考房」の3Dプリンターや工作機械を使って、既製品ではない、オリジナルの部品を製作できたことも大きかったと樋田さんは話す。将来的には選手向けの練習装置の開発をめざしたいという。

メモ

金沢工業大学 1957年開校の北陸電波学校を起源に、65年、金沢工業大学を開学。本部所在地は石川県野々市市。工学部、情報フロンティア学部、建築学部、バイオ・化学部からなる。学部学生数6383人、大学院生数487人(2019年5月1日現在)。学部学生の7割以上を石川県外の出身者が占める。「高邁(こうまい)な人間形成」「深遠な技術革新」「雄大な産学協同」が建学綱領。

大学ランキング 金沢工業大
2018年11月、全国の国公私立大学755校の学長にアンケートを送付し、19年1月下旬までに回答のあった559校の学長の意見をまとめた(「大学ランキング2020」から)

文部科学省の政策で学長の権限が強化され、大学トップ(学長、総長)は教育、研究、大学経営に力を入れるようになり、大学のさまざまな取り組みにも目を光らせるようになった。学長たちは、教育面では定員割れを脱して地元から信頼される大学に、研究面では外部から優れた研究者を呼び新しいテーマにチャンレンジする大学に、経営面では広報や学生募集で成果を上げている大学に、強い関心を寄せている。そのような目利きの学長による評価(ランキング)をみると、勢いのある大学がわかる。

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