「おいしいコーヒーいれるには?」麻布中・理科の入試問題が話題 狙いはどこに?

2019.03.28

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阿部 健祐
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  • 2019年中学入試で、麻布中の理科「コーヒー問題」が話題に。出題の意図は?
  • 「回転式穴あきドラム」を触ったことのある受験生は「ほとんどいない」。でも、答えることはできる
  • 進学塾担当者が狙いを解説。「入試改革の『主体的で深い学び』を体現した問題」

みなさんはコーヒーを飲んだことがありますか――。そんな呼びかけから始まる中学入試問題が今年、受験生や塾関係者らの間で話題になりました。私立男子校、麻布中(東京)の理科の試験です。6年前には「ドラえもん」が生物として認められない理由を出題しています。一風変わったこれらの問題。どういう狙いがあるのでしょうか。

東京の中学入試は2月から始まります。麻布中の試験日は1日で、理科は四つの大問を50分で解きます。多くの学校の理科は30~35分なので、その長さが際立ちます。コーヒーは大問2(小問九つ)でした。試験問題は受験生が持ち帰ることができます。

問題をみてみましょう(長文のため、趣旨を変えない範囲で再構成しています)。

みなさんはコーヒーを飲んだことがありますか。ほろ苦い大人の味ですから、まだ苦手だという人も多いでしょう。今日はコーヒーに関するさまざまなことを科学的に考えてみましょう。

コーヒーを淹(い)れる際に必要なコーヒーの生豆は緑色をしており、苦味も酸味もほとんどありません。

この生豆を焙煎 (ばいせん)焙煎 (ばいせん)コーヒー豆をフライパンや金網(かなあみ)の上に乗せて加熱する作業のこと。焙煎の度合いに応じて、浅煎(あさい)りの茶色、中煎(なかい)りのこげ茶色、深煎(ふかい)りの黒色などのコーヒー豆になる。 します。
これにより、コーヒー豆の酸化(空気中の酸素と結びつく反応)がはやまります。

コーヒーの味は苦味や酸味などが複雑にからみあっており、焙煎度合いに応じて大きく変化します。苦味成分の量は、焙煎が進み、コーヒー豆が酸化するにつれて増加していくといわれています。

また、酸味の原因はコーヒー豆に含まれる有機物が酸化されることによって生じる有機酸だといわれています。有機酸は長時間の加熱にともなって、徐々に気体になったり分解したりする性質を持っています。そのため、深煎りのコーヒー豆には有機酸は少量しか含まれていません。

【設問】問1 焙煎は回転式穴あきドラムを使って行うことがあります。このとき、豆はドラム内に入れ、下部のヒーターで加熱します。金網とコンロを用いる場合に比べて、コーヒー豆の仕上がりにどのような利点があるか答えなさい。(日能研作成の解答例は、記事末尾にて紹介します)

おいしいコーヒー入れるには?02

過去には「ドラえもん」も

試験後には、ツイッターで「コーヒーのいれ方を科学的に考えさせる問題で面白い」「麻布らしい」「入試問題とは思えないぐらいお洒落(しゃれ)」という反応や、問題文の長さに驚くコメントがありました。

麻布中の理科の入試問題をめぐっては、2013年にも話題となりました。こちらも記述式です。

「ドラえもん」がすぐれた技術で作られていても、生物として認められることはありません。なぜですか。

繁殖して子孫を残すことや細胞を持っていること、代謝することなど、生物の定義を踏まえたうえで論理的に答える必要があります。一方、問題文の中に生物の定義を説明した「ヒント」があり、よく読めば答えが導ける問題でした。

筋道を立てる力を試す

麻布中はどんな学校なのでしょうか。1895年創立の完全中高一貫校で、公式ホームページでは「自由闊達(かったつ)・自主自立の校風」とうたっています。脚本家の倉本聰さんや橋本龍太郎・元総理大臣らがOBです。東京では開成中、武蔵中と並び、私立男子中学校の「御三家」の一つに数えられています。

おいしいコーヒー入れるには?
麻布中学校の校舎(中央の白い建物)=2019年1月、東京都港区元麻布2丁目

コーヒー問題の狙いについて取材を申し込みましたが、試験問題の作成に関わることでもあり、「諸事情のためお答えできません」とのことでした。そこで、入試問題の分析にたけている、進学塾大手の日能研本部(横浜市)の理科担当者に話を聞きました。

担当者は「これまで学んできた理科の授業や、日常の体験からつながりを見つけ、その場で考える力を測る問題です」と言います。「回転式穴あきドラムを触ったことのある受験生は、ほとんどいないと思います。まず、ドラムを回転させると豆がどうなるかをイメージします。水に食塩を入れてかき混ぜて、食塩のつぶが均一に溶ける現象などと結びつければ、答えを導きだせます。食塩水を作る実験は、学校の理科の授業でやっているはず」

では、麻布中はこの問題で、どんな能力を測ろうとしているのでしょうか。担当者は「必要な情報を読み取って仮説をつくり、論証する力です。小学生の大半にとって、コーヒーは『未知のもの』。自分の持っている知識や考え方をもとに、筋道を立てる力を試しています」と解説してくれました。

実際に試験を受けて合格した、春からの新入生にも感想を聞きました。「解きながら『次になにを聞いてくるのか』と続きが読みたくなった。『コーヒーは飲んじゃだめ』と言われてきたけど、飲む理由ができたかな」

2020改革が求める「主体的で深い学び」

2020年度の大学入試改革を前に、特に首都圏では私立の中高一貫校の受験生数が増加傾向にあります。首都圏の小6人口が増えていることも要因の一つですが、大学入試改革構想が打ち出され、思考力などを問う試験への対応が必要と、保護者らが考えていることも背景にあるとみられます。

日能研の担当者も「入試改革では『主体的で深い学び』を唱えています。今回のコーヒーの問題はそれを体現しています」と話しています。

子どもが論理的思考力をつけるため、保護者ができることを聞いてみました。「子どもは日常生活では、色んなことに『なぜ』と興味を持ちます。本やネットを利用し、情報を得るための方法を教えるなど、子ども自身が探求することの手助けすることが大事です」

学ぶを楽しむ

日能研に取材する前に、記者も解いてみました。
解答欄は縦1センチ、横12センチ弱。大人の字でも25字程度が限度でしょうか。部分点をとろうと思えば、解答欄にいろいろな要素を入れたくなりますが、スペースが狭く、許してくれません。

もし、自分が小学6年生だったら、何を書けばいいかわからず、頭が真っ白になっていたでしょう。

見たことのない問題を前に自分でどう考え、答えを導くのか。12歳の少年に求めているのは「学ぶことを楽しむこと」です。

子どもは、好奇心旺盛で、寄り道ばかりしているように見えます。でも、コーヒーの問題を解くためにはむしろ近道なのではないでしょうか。子どもの好奇心を伸ばす手助けをする――。簡単でないですが、子どもの将来を考えると、大切なことだと思いました。

お待たせしました。最後に日能研本部の回答を紹介します。
「むらなく均一に焙煎できる」

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